寒さによってDNAも環境に適応 その仕組みを解明―東大、東北大の研究
2018年4月24日 11:20
東京大学先端科学技術研究センター/東北大学 大学院医学系研究科の酒井寿郎 教授、群馬大学生体調節研究所の稲垣毅 教授、学術振興会の阿部陽平 特別研究員、東京大学大学院薬学系研究科大学院生の藤原庸右氏および東京大学大学院医学系研究科大学院生の高橋宙大氏らの研究グループは、DNAが寒冷環境においてエピゲノム(遺伝子の後天修飾)を生じ、脂肪燃焼や熱産生に関わる「眠っていた遺伝子」を活性化させ、寒さへの適応を生じさせるという研究を発表した。
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エピゲノムとは何か。これが一番重要であるので、これについて説明しよう。まず、ゲノムというものがある。DNAが持つ情報、生命の設計図である。ゲノムの情報の中には、働いている(活動中)領域と働いていない(休止中)領域がある。
つまり細胞が活動するにあたって実際に機能する領域と、情報は存在しているが機能していない領域があるわけなのであるが、これは、後天的に、ゲノムに対して施される生体機能、化学修飾によって決められる。これが「エピゲノム」である。環境への適応のため、エピゲノムは環境ごとに多様に変化し、遺伝子の発現を調整する。それによって、生体の細胞には実際上の形質変化が生じる。我々がさまざまな環境の変化に適応することができる理由のひとつはエピゲノムにある。
さて、今回の発見は、脂肪細胞に関するものである。端的に書くと、白色脂肪細胞のベージュ脂肪細胞への変化の家庭に生じる、ヒストンの持つ脱メチル化酵素のリン酸化、なるものが寒さへの適応に関し重要な役目を果たすという話である。
白色細胞よりもベージュ脂肪細胞の方が熱生産性が高く、寒冷環境への適応に向いている。つまり、寒いと、DNAの設計図からの読み出し情報が変化し、寒冷地向けの脂肪が体に増えて、寒さに対応できるようになるというわけである。
なお研究の詳細は、国際科学誌Nature Communicationsにオンライン掲載されている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る)