安価な水素社会実現の道拓くか 筑波大ら、腐食耐性がある卑金属電極を開発
2018年4月3日 07:14
筑波大の伊藤良一准教授は3月30日、阪大や東北大と協力して、白金の100分の1のコストにて水素を生成できる腐食耐性のある卑金属電極を開発したと発表した。シリカナノ粒子を付着させたニッケルモリブデン卑金属多孔質合金の上にグラフェンを蒸着。酸性電解液中で長時間溶けずに水の電気分解で運用できるナノサイズの穴の空いた水素発生電極を、世界で初めて開発した。
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水素は排気ガスが一切出ない次世代エネルギー源として注目されている一方、その生成方法は化石燃料等の大量消費によって支えられている。水素が真にクリーンなエネルギー源になるには、水の電気分解のように再生可能エネルギーを利用することだ。ところが、水の電気分解の電極は、1グラム当たり約4000円近くする高価な白金だ。
白金に代わる電極として、卑金属電極が研究されているが、課題は腐食耐性だ。卑金属電極は、酸性電解液で10分も経過せずに腐食するが、今回開発された電極は、2週間以上の腐食耐性を持ち、白金の100分の1のコストで合成できることから、水素社会実現への道を拓くことが期待される。
なお、詳細は3月16日付の「ACS Catalysis」で公開されている。
●ニッケルモリブデン卑金属電極の特長
図は電極の作製概要図と水素発生の仕組みだ。
シリカ(SiO2)ナノ粒子と酸化ニッケルモリブデン(NiMoO4)ナノファイバーを混ぜて加熱還元。連続的に化学気相蒸着法でグラフェンを成長させると、一部穴の開いたグラフェンに覆われたニッケルモリブデン表面になる。この表面はナノサイズの穴の空いた3次元構造を持つグラフェンで覆われるため、酸性電解液と卑金属表面との過度の接触を防いで卑金属の腐食を最小限に抑える効果がある。
この卑金属表面と酸性電解液とが、直接接触できるナノサイズの化学反応場になる。穴の空いた部分では水素イオンと表面が接触し水素が発生する。
●水素製造(筑波大ら、卑金属電極)のテクノロジー
水素が排気ガスを一切出さない次世代エネルギー源になるには、水素の製造方法も再生可能エネルギーとすることだ。今回の発表は、水の電気分解の高価な白金電極を安価な卑金属電極に代替する技術だ。
穴の空いたグラフェンで保護することで卑金属電極の性能と耐久性のバランスを取り、白金に匹敵する卑金属電極を実現。ナノサイズの穴が空いた電極は、定電位を印加したとき、20ミリアンペア/平方センチメートルを2週間維持した。
電極の作製方法は、ワンステップで卑金属の多孔質化と穴の開いたグラフェンの蒸着を連続的に行えるため、大量生産に向いているプロセスだ。実用化に向けた企業との連携に期待する。(記事:小池豊・記事一覧を見る)