パリ協定の温度目標とゼロ排出目標の整合性は?ゼロ排出の早期達成が重要
2018年3月29日 21:14
国立環境研究所、及びアメリカのNCAR(National Center for Atmospheric Research)は27日、パリ協定による温暖化を2度以内に抑えるという目標と、温室効果ガス排出をゼロにするという目標の関係の解明を行い、2つの目標は必ずしも一致しないと発表した。本研究は、削減に早期から着実に取り組まなければ、排出をゼロにしても、温度目標を達成するには不十分な場合があることを示唆している。
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パリ協定の目標に向け、世界各国が排出削減の進展を報告。その目標を調整する中では、世界各国が、その取り組みを明確に認識することが重要だ。例えば、気候学者Tom Wigleyがリードした研究では、主要な温室効果ガス排出に焦点を絞り、温度上昇を2度で安定させるのに必要な排出量とタイミングを調査している。
本研究も、パリ協定を遵守するのに何が必要かを明確にする研究活動の一環だ。コンピュータシミュレーションにより、様々な可能性のシナリオを分析し、排出削減と温度目標の関係の解明を試みている。
詳細は、27日のNature Climate Changeに掲載されている。
●パリ協定での目標
パリ協定は、2015年にパリで開催された、温室効果ガス削減に関する国際摘会議「国連気候変動枠組条約締約国会議」で合意し、2016年11月に発効。世界の温室効果ガス排出量の約86%、159カ国・地域をカバーする。
その目標は、温度目標とゼロ排出量だ。温度上昇を2度未満(理想的には1.5度未満)に抑え、温室効果ガス(二酸化炭素やメタン等)の排出を今世紀後半にゼロにする。
ところが、この2つの目標の関連性は十分に理解されていないという。ゼロ排出目標は温度目標を達成するのに十分なのかを検証したのが本研究だ。
●ゼロ排出目標の達成時期が重要
コンピュータシミュレーションでの様々なシナリオは、興味深い。温度目標とゼロ排出目標は必ずしも一致しないという。
図のパネルa・cは、温度目標を達成するための温室効果ガス排出への影響を示したシナリオだ。短期的に急激な排出削減を行えば、正味ゼロまで排出削減を行わなくとも温度目標が達成できる可能性を示している。
図のパネルb・dは、ゼロ排出目標を達成するための気温への影響を示したシナリオだ。削減温室効果ガスの排出を正味ゼロまで削減できたとしても、削減に早期から着実に取り組まなければ、温度目標を達成できない。
●ゼロ排出を達成するタイミングが重要
短期間に急激な排出削減を行えば、温暖化は一時的な目標超過なしに1.5度及び2度で安定する。例えば、1.5度目標には、2033年までに約80%もの排出削減、2度目標には、2060年までに約3分の2の排出削減が必要だ。
気温が一時的に目標を超過し、今世紀末までに1.5度や2度上昇に戻るシナリオもある。ゼロ排出が2070年に達成ならば、大気から二酸化炭素を回収する活動を必要とする。
ゼロ排出目標を目指すシナリオでは、2060年と2100年にゼロ排出になる場合を分析。2060年達成の場合の気温は、2度の目標付近でピークを迎え、その後下がる。2100年の終盤型の場合、気温は3度上昇を超え、約1世紀以上の間、2度上昇まで戻らない。
シミュレーションの結果では、ゼロ排出を達成するタイミングが重要であることを示す。パリ協定の今世紀後半ゼロ排出という目標を達成しても、排出削減が遅ければ、温度目標を大きく外れることになる。(記事:小池豊・記事一覧を見る)