日本生命、M&Aを柱に低金利の逆風に挑む
2018年3月16日 09:51
日本生命保険は2日、マスミューチュアル生命保険の株式85.1%を1,042億円で取得し、経営統合を進めることで合意したと発表した。同社は富裕層向けの相続・贈与ニーズに強みを持ち、証券会社・メガバンクへのサポート体制が充実している。
【こちらも】日生、健診・医療ビッグデータを活用したヘルスケア事業を本格展開へ
さらに12日には、ドイツ銀行系のグローバル資産運用会社DWS社の株式5%を取得し、役員を派遣すると発表した。DWS社は40カ国に展開し、7,000億ユーロ(約95兆円)の預かり資産を所有して、豊富な資産運用ノウハウを持っている。
生命保険会社は保険契約者(社員)の支払う保険料と、預かった保険料(資産)を適正・安全に運用することとで運営されている。
低金利政策、高齢化と人口減少、消費者ニーズの多様化などの厳しい経営環境の中で、日本生命は従来と異なる富裕層向けの保険契約の獲得を目指してマスミューチュアルとの経営統合を進める一方、DWS社への出資により資産運用力の向上とアセットマネジメント事業の強化を図る。
低金利政策の影響で金融機関の収支が悪化傾向にある中、国内外で出資や買収を加速し収益構造の改善を進める日本生命の動きを見ていこう。
■前期(2017年3月期)実績
前期の保険料等収入と資産運用収益を合わせた経常収益は7兆3,018億円(前年比91%)で、保険料等支払金、資産運用費用、保険事業運営のための事業費を合わせた経常費用は6兆7,734億円(同91%)、差し引き経常利益は5,283億円(同94%)であった。
この経常利益から有価証券売却損益などのキャピタル損益と臨時損益などを差し引いた一般企業の営業利益に当たる基礎利益は6,855億円(同97%)だった。
基礎利益は2015年12月に子会社化した三井生命、2016年10月に子会社化した豪州MLCの業績が連結に反映されたが、全体の93%をしめる日本生命単体が低金利の影響で利息・配当金等の収入が減少したことにより減益となった。
■今期(4-12月期)実績と今期(2018年3月期)見通し
4-12月期の経常収益は5兆6,714億円(同105%)、経常費用は5兆3,004億円(同106%)で両者の差額である経常利益は3,709億円(同95%)、基礎利益は4,873億円(同108%)であった。
基礎利益は全体の92%を占める日本生命単体が増益に転じ、三井生命の増益やMLCの連結反映により増益となった。
基礎利益の今期見通しは、三井生命の増益とMLCの連結寄与は見込めるが、全体の93%を占める日本生命単体が減益で、全体としては減益の見通しである。
■中期計画(2018年3月期~2020年3月期)による事業推進
長期にわたり生命保険No.1の地位を確保し、人生100年時代をリードするため、M&Aなどを活用した次の戦略を推進する。
1.超低金利下で収益性向上
三井生命やマスミューチュアルとの統合による商品の充実。代理店・金融機関、ニトリ・NTTドコモなど取り扱いチャネルの拡大。
2.社会的役割の拡大
子育て支援のためニチイ学館と共同で全国100カ所に保育所開設。ヘルスケア事業の展開や、日本郵政、ヤマト運輸と提携して遠隔地での対面サービス強化。
3.グループ事業の着実な収益拡大
三井生命、MLCとの統合によるシナジー効果の追求と海外資産運用会社の独DWS社や米TCW社との提携による資産運用力向上。
長期スパンで堅実・健全な経営を目指す、顧客数1,180万人、自己資本1兆円を超える巨大企業日本生命の動向に注目したい。(記事:市浩只義・記事一覧を見る)