理研、脳の深部を可視化する人工生物発光システムを開発
2018年2月27日 11:17
理化学研究所(理研)脳科学総合研究センターの宮脇敦史チームリーダーらは23日、ホタルが産生する化合物(基質)とタンパク質(酵素)をベースに新規の人工生物発光システムAkaBLIを開発したと発表した。生きた動物個体深部からのシグナル検出能を飛躍的に向上させたという。
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ホタルの発光を人工的に作り出し、マウスや猿の高次脳機能をこの発光で可視化したという。具体的には、マウスの大脳皮質下の標識神経細胞からの発光を、マウスを傷つけることなく、また無麻酔かつ自由行動の状態で可視化することに成功。同様に、猿の成体でも可視化を実現したという。
理研では、マウス海馬のわずか数十個の神経細胞がさまざまな環境の変化に応じて興奮する様子を動画で配信。
現在、脳深部を観察する光学的技術として蛍光内視鏡が注目されているが、体を傷つけるにも関わらず、観察視野が狭い。AkaBLIは個体を傷つけることもなく、高等動物の高次脳機能をより自然な状況で解析するための技術だ。
本研究の詳細は、米国の科学雑誌「Science」に掲載されている。
●人工生物発光システムの原理
生物発光は基質と酵素から構成され、基質が酵素によって酸化されると、エネルギーを波長として放出し発光が起こる。例えば、ホタルは長い進化の過程で、基質と酵素のペアを最適化し発光を実現したと考えられている。
今回の研究は、このホタルの酵素を試験管内で進化を施せば、さらに効率よく酸化できるだろうという仮説を出発点とする。
図2を見てほしい。ホタルの天然基質と天然酵素の組合せでは、ホタルの黄緑色の発光が見て取れる。これに対して、明るさ指向の試験管内進化を施す。天然基質を人工基質へと変異させたものでは、近赤外に。最終的には、天然酵素にも28個のアミノ酸変異を施した人工酵素と組み合わせて、近赤外の人工生物発光システムAkaBLIを開発。
人工酵素は天然酵素に比べて10倍の酸化反応活性を示す。また、マウスの実験では、AkaBLIは天然基質と天然酵素に比べて、100~1,000倍のシグナル量増加を確認。
●人工生物発光システム(理研、AkaBLI)のテクノロジー
AkaBLIは、ホタルの発光原理を模した人工の基質と酵素からなる。人工基質は2013年に開発済。今回開発した人工酵素と人工基質の組合せがAkaBLIだ。
AkaBLIを含む水をマウスや猿に与え、脳の可視化に成功。また、がん細胞の発光も確認した。自然に近い状態での脳の機能の観察やがん細胞の動きなど応用研究が期待される。(記事:小池豊・記事一覧を見る)