東大、印刷できる有機集積回路基板を開発 安価なIoTデバイスへの道拓く

2018年2月5日 22:57

 東京大学大学院新領域創成科学研究科の竹谷純一教授らは3日、有機半導体インクを用いた簡便な印刷手法によって、分子スケールで膜厚が制御された厚さ15ナノメートル(10億分の1メートル)以下の2次元有機単結晶ナノシートを10センチメートル角以上の大面積にわたって作製することに成功したと発表した。

【こちらも】IBCはブロックチェーンを利用したIoTデバイス向けセキュリティサービスの実証実験を開始

 有機半導体は、次世代電子材料として注目されているが、シリコンなどの無機半導体と比べて、良質な単結晶の大面積作製が困難であり、かつ非常に大きな接触抵抗を持つため、高速な動作が難しいという問題があった。

 今回の発表では、10センチメートル角以上の大面積の単結晶ナノシートを開発。電荷移動度も実用化の指標となる10cm2/Vsを超えた13cm2/Vsを達成。加えて、有機電界効果トランジスタとしては最小の47Ωcmの接触抵抗であり、高速回路実現に目処がつく。

 この有機集積回路基板を用いて、無線タグの商用周波数の13.56MHzを大きく上回る29MHzで応答可能な整流素子の作製に成功。コンビニで健闘している電子タグの低価格化に貢献できる内容だ。

 本研究成果は、米国科学雑誌「Science Advances」2018年2月2日版に掲載された。

●有機単結晶ナノシートの特長

 大面積の2次元有機単結晶ナノシートを簡便なプロセスで実現。これは独自の有機半導体材料を有機溶媒に溶かしたインクを溶液塗布し、一軸方向に乾燥させるというシンプルな手法。溶媒の蒸発によって、有機半導体分子が析出する速度や基板の移動速度を精緻にコントロールすることで、分子層数が制御された2次元有機単結晶膜を得る。

 有機単結晶ナノシートは、電極からチャネルとなる半導体/絶縁層界面にダイレクトに電荷注入。このことで、有機電界効果トランジスタの応答速度を低下させる要因となっている接触抵抗の低減を実現した。

 高移動度と低接触抵抗を両立したことで、有機単結晶ナノシートを用いた電界効果トランジスタにおいて、世界最高クラスの20MHzの遮断周波数を実現している。

●印刷方式の有機半導体(東大、有機単結晶ナノシート)のテクノロジー

 大面積2次元有機単結晶ナノシートは、これまでは有機半導体の応用が困難と考えられていた高速演算処理を可能にした。

 簡便な印刷プロセスで量産することができることから、今後のIoT社会を担う物流管理に用いられる低コストの無線タグや、生体信号をモニターするヘルスケアデバイスなどへの幅広い展開の可能性を秘める。

 さらに、電荷伝導層が表面に露出しており外部刺激に対して敏感に応答すると予想されるため、ガスや生体細胞の吸着を高感度で検知するセンサーへ適用することも期待できるという。(記事:小池豊・記事一覧を見る

関連記事

最新記事