「変わること」が苦手なら「変わらずに適応できる場所」を探さなければならない

2017年11月10日 16:43

 企業に勤める40代から50代のシニア世代に対して、キャリア指導をしている人が書いた記事の中にあった話ですが、この世代に向けたキャリア研修での感想には、「このまま定年で退職して悠々自適できるような時代ではないと自覚した」というようなものが多いそうです。

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 「悠々自適」という言葉の意味は、“自分の思うままに心静かに生活を送ること”なので、少なくともそれまでのような働き方を続けるイメージではないと思いますが、高齢化社会で年金受給もあてにならなくなっていくことを考えると、そうはいかない人の方が多くなっていくのは確かなことでしょう。

 この研修の感想を見て思うのは、意識を変える必要性を自覚したという反面、「悠々自適」が許されるならばそれを望んでいたとも読み取れます。
 そういう気持ちであったとすると、いくらここで自覚したと言っても、そこから具体的に意識を変え、行動を変えていくのはかなり大変なことですし、気持ちの切り替えも含めてそれなりの時間がかかるでしょう。

 さらに、40代、50代というシニア世代になってくると、変化に対応したり、気持ちをもう一度焚き付けたりすることは、どちらかといえば難しくなります。
 私は雇用されていないので少し立場が違いますが、同世代で何となく気持ちがわかるということで、この感覚を少し悪い言い方で表現をすれば、「心配は募るがそこまでのやる気は出ない」という感じではないでしょうか。
 やる気が出ないなどとあからさまには言いづらいですが、本音ではそんな感覚のシニア世代も意外に多いのではないかと思います。

 そうは言っても自分たちの生活のためには何かをしていかなければならず、「生涯現役でなければならない」という人も増えてきています。
 ではどうすればよいかと具体的に考えると、私は40代、50代といったシニア世代の人にできるのは、「どうやって新しいことを身につけるか」ではなく、「今までの経験や能力をどうやって活かして貢献するか」ということしかないと思っています。
 いくつになっても新しいチャレンジをし続ける人はもちろんいますが、全体を見ればそういう人は圧倒的に少数で、多くの人ができるのは「今持っているものをどう活かすか」です。

 そこで本人が考えなければならないのは、「自分の能力、経験に価値を見出してくれる人や企業がどこにいるのか」ということです。しかし、これを考えられない、想像もできないというようなシニアが、かなり多いと感じます。

 私のある知人に、「自分の経験があれば中小企業の指導くらいすぐできるから、コンサルタントでもやろうと思っている」などと、自分の経験に自信過剰な人がいましたが、そんな人がいる一方、「自分の経験は特殊で狭く、自社の特化したことなので、他に活かせることはないとあきらめている」などと、初めから自分の経験を卑下して思考停止している人がいます。

 どちらの場合も、自分の能力や経験を客観視できていない点が共通していますが、一つの会社に長らく勤めてきた人や社外との接点が少ない人は、自分の能力が活かせる環境を考えること自体が難しいのも確かです。
 また、特にシニア世代の場合、行った先の企業から「できると思ったがダメだった」と言われてしまう話は比較的多いですが、変化が苦手なシニア世代では仕方がない面もあります。若い世代以上にぴったりしたマッチングを考えなければなりません。

 その人の持つ経験、能力というのは、実際にそれが発揮されているところを見なければ、他人からはなかなか理解しづらいですが、それを本人さえ自覚できていないとなると、せっかく持っている知識や経験は埋もれてしまいます。それは本人にとっても社会にとってももったいないことです。

 「変わること」が苦手なシニア世代は、「変わらなくても適応できる場所」を探さなければなりません。それがどこかを見つけ出すのはなかなか難しいことですが、まずは当事者である自分がその意識を持つことが必要ではないでしょうか。

※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら

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