【大前研一「企業の稼ぐ力を高める論点」】生産性向上をもたらす間接業務の効率化

2017年10月28日 18:39

 【連載第3回】今、日本企業の「稼ぐ力」が大幅に低下しています。長時間労働の常態化により生産性が低く、独自の施策によって効率化を進めることが重要課題となっています。経営トップは常にアンテナを高くして、自社や業界がどれだけの危機にさらされているのかを正確に知覚し、正しい経営判断につなげていく必要があります。本連載では、企業の「稼ぐ力」を高めるための8つのヒントをお伝えします。

【大前研一「企業の稼ぐ力を高める論点」】生産性向上をもたらす間接業務の効率化

 本連載は、書籍『大前研一ビジネスジャーナル No.14(企業の「稼ぐ力」をいかに高めるか~生産性を高める8の論点/変化する消費行動を追え~)』(2017年9月発行)を、許可を得て編集部にて再編集し掲載しています。今回の記事では、企業の稼ぐ力を高める8の論点から『論点3.どのような「人材/機械のポートフォリオ」を構成するべきか』を前回に続きご紹介します。
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安倍内閣が本気ならばドイツを目標にせよ

 G7各国の1人当たりGDPを比較してみると、日本は第6位と低い部類に属します(図-14左)。
 トップの米国は日本の1.73倍です。ドイツは第4位ですが、日本がもしドイツ並みの1人当たりGDPを達成したら、日本のGDP規模は600兆円を超えることになります(図-14右)。
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 現内閣が目標として掲げる数字、アベノミクス「新3本の矢」の第1の矢がこれで実現できることになりますが、ドイツと日本との違いで最も重要なのは労働生産性の違いです。前述したような労働市場改革によってドイツは労働生産性を高め、「欧州の病人」から「EUの優等生」へと生まれ変わることができました。

 日本が真に取り組むべきは「アジェンダ2010」のような構造改革であり、相も変わらぬバラマキの財政出動やマイナス金利政策による景気浮揚ではドイツ並みの1人当たりGDPには到底届かないのです。労働生産性改善のための政策こそが必要なのですが、今の日本の政府の得意技はマイクロ・マネージメントです。

間接業務を効率化するためのサービス

 悲嘆するばかりではなくグッドニュースもご紹介しましょう。間接業務のアウトソーシングサービスを提供する会社が日本でも非常に増えてきています(図-15)。
 リーガルテックとして、弁護士ドットコムが運営するウェブ完結型のクラウド契約サービス「クラウドサイン」がありますし、独自開発のAI「KIBIT(キビット)」によって様々なビジネスソリューションを展開しているフロンテオ(旧称:UBIC)がリーガル分野にも進出してきています。契約締結にまつわる法務上の煩雑な業務はこういうところに出してしまえば、コストダウンと生産性向上につながり、ペーパーレス化にもなります。
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 おなじみフィンテックとしては、会計・経理・給与計算をクラウドで行えるfreee、家計簿アプリのマネーフォワード、中小企業向けのクラウドERP(統合業務システム)であるClearWorksを提供しているスマイルワークス、クラウド請求書作成サービスのMisoca、コンビニ後払い決済のNP後払いを提供しているネットプロテクションズ、出張・経費精算業務を支援するクラウドシステムConcur Expenseのコンカーといった企業やそのサービスが登場してきています。

 その他の間接業務代行サービスとして、海外出張手配および管理のボーダー、オンラインでのリモートアシスタントサービスCasterBizのキャスターなどがあります。

 それからヒューマンリソースに関しては、社員教育のための業務マニュアルをクラウドで作成し共有するツールTeachme Bizのスタディスト、勤怠管理をオンラインでできるジョブカンのDonuts、クラウド人事労務ソフトSmartHRのSmartHR、採用戦略に関するソリューションサービスHRMOSのビズリーチ、人工知能型ERPシステム「HUE」で人材タレントマネジメントその他人事管理や財務会計、販売管理などを総合的に行うパッケージを開発・販売しているワークスアプリケーションズなどがあります。

 SFA/CRM(Sales Force Automation / Customer Relationship Management:営業支援システム/顧客管理)の分野では、その名もズバリのセールスフォース・ドットコムによるSalesforceやレッドフォックスのcyzenが営業支援のクラウドサービスを提供しています。cyzenはGPSを使った位置情報SFAツールで、どこの顧客のところに出向いて何分いて結果はどうだったかなど外回りの行動をスマホアプリで共有できます。出退勤記録も可能ですので、営業所に来なくとも直行直帰で報告業務ができます。またLINEのMessaging APIを利用することで顧客一人一人に対応も可能です。
 米国ではこうしたサービスが当たり前のようにたくさんありますが、日本でもこのように出てきています。これらを自分で使って感覚を磨いていくことが大事です。
「大前研一ビジネスジャーナル」シリーズでは、大前研一が...
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大前研一ビジネスジャーナル No.14(企業の「稼ぐ力」をいかに高めるか~生産性を高める8の論点/変化する消費行動を追え~)


¥1,500
「大前研一ビジネスジャーナル」シリーズでは、大前研一が主宰する企業経営層のみを対象とした経営勉強会「向研会」の講義内容を読みやすい書籍版として再編集しお届けしています。
 日本と世界のビジネスを一歩深く知り、考えるためのビジネスジャーナルです。
 ■生産性を高める経営 ~「稼ぐ力」を高めるための8の論点~
 ■変化する消費行動を追え ~消費者をどう見つけ、捉えるか~ 販売サイトへ

従業員数50人の会社の間接業務を担当者1名でこなしているスキャンマン(SCANMAN)社

 こうしたクラウドコンピューティングサービスを実にうまく取り入れている導入例をご紹介しましょう。紙文書のデータ化サービスを行っているスキャンマン(SCANMAN)という会社です。ここはかつて従業員数が50人という規模の会社だったのですが、その間接業務を、クラウドコンピューティングサービスを活用して担当者1名でやれるようにしました(図-16)。スキャンマンの“1人総務”の事例は様々なメディアで取り上げられ、賛否両論大きな反響を呼びました。
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ゴールドマン・サックスは全社員の1/3がコンピュータ・エンジニア

 スキャンマン社は中小企業ですが、大企業でも同様の例があります。ゴールドマン・サックスは2000年ごろには600人のトレーダーを擁して“世界最強のトレーディングルーム”をニューヨークに構えていましたが、今ではトレーダーは2人しかいません(図-17)。

 現在の株式取引はコンピュータによる超高速の売り買いで、スプリットセカンド、つまり秒を分かつほどのほんの一瞬の間に取引をやってしまうものになっています。もはや人間の手では間に合わない領域に突入しているのです。これでゴールドマン・サックスは依然として世界最強のトレーディングをやっていますが、この株式売買自動化プログラムを支えているのは200人のコンピュータ・エンジニアです。
 トレーディング部門で600人のトレーダーが3分の1の数のコンピュータ・エンジニアに取って代わられたばかりでなく、全体的に見ても現在は全社員の3分の1に当たる9,000人がコンピュータ・エンジニアです。
 これが今の世の中です。このくらい大胆に変化しているのです。ウォール街のほかの証券会社もここ5年で取引の自動化を進めていますが、日本の証券会社がかなわない理由はこのあたりにあるでしょう。
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 (次回に続く)

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