福島原発内の被害を調査したロボット技術、トピーが農業で実用化

2017年10月16日 06:13

 トピー工業は10日、高い走行性能と前後左右の移動機能を持つクローラ移動機構「オムニクローラ」の自動走行システムを開発したと発表した。「オムニクローラ」は、東北大学大学院 田所・多田隈研究室の成果をベースにトピーが開発を進めた自動走行システムの移動機構で、原発内の被害状況を確認するために投入されたロボット技術を実用化したことになる。今後、農業や物流業での様々な用途に展開していくという。

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 東北大学大学院 田所研究室では、災害対応のためのロボットやシステムを研究している。このRT(ロボットテクノロジーと各分野の融合)の研究は、阪神淡路大震災を機に始まり、東日本大震災における福島原発での事故対応の一環として、関係部署と共同開発した災害対応ロボットQuinceを福島原発内に投入した実績を持つ。

●東北大学の災害対応ロボットQuince

 Quinceは、災害で閉鎖した地下街や半倒壊した建物を探査するロボットであり、人間に代わって災害状況を把握する。全身を覆う移動用のクローラベルトと4本のサブクローラベルトを駆使することで運動性能を発揮。階段や不整地と呼ばれる起伏の激しい地形での運行を可能にしている。加えて、レーダーにより三次元計測や三次元地図の作成機能を持つことで、災害状況を把握する。

 Quinceの操作は、遠隔操作と自律制御を組み合わせておこなう。被災現場での捜索や探査は、被災した建物の内部まで及び、状況に十分に対処することが求められる。

 クローラの自律制御には、クローラ表面の接触位置や接触圧を計測する分布触覚センサで対応するという。そして、クローラと瓦礫表面の接触位置と力を把握して、クローラの段差踏破や転倒を回避する。

●トピーの「オムニクローラ」の特長

 クローラ移動機構は、広い接地面積により高い推進力を得られるため、悪路での走破や段差を乗り越える能力に加えて、狭い場所での方向転換機能を兼ね備えている。それは、前後方向のクローラベルトに左右方向の回転機構を組み込み実現しているという。

 自動走行モードでは、走行ルートに置かれたポールをレーザーセンサで検出。自機の走行位置を把握して自動走行する。加えて、走行ルート上での安全性を確保するために、衝突防止機能や障害物回避機能を設けて、自動でルートを変更するという。

 自動追尾モードでは、追尾対象をセンサで認識して追尾するようだ。運搬や搬送などの利用場面を想定しているのであろう。

●クローラ型ロボット(トピー、「オムニクローラ」)のテクノロジー

 クローラ部分をプラットフォームとして、小型から大型までのラインアップを充実させ、人手不足を解消する移動機構としたことである。特に、全方向に方向転換可能な仕組みは、狭い場所で威力を発揮すると思われる。

 発表した試作機は農業用であり、銀座農園とのコラボレーションであるという。自動走行による野菜への薬剤噴霧、野菜の収穫時の自動追尾、運搬・積込の自動走行、および移動や戻りの一連の動作が可能である。プラットフォームの上に、想定するユースケースの機能のみを搭載することで、価格を抑える狙いがあると考えられる。

 なお、試作機の寸法は54×92×30センチメートル、重量は100キログラム、最大積載量は300キログラム、走行速度は時速3キロメートルという。(記事:小池豊・記事一覧を見る

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