電気・ガスの自由化で払われた市場の壁 求められる総合エネルギー市場を俯瞰した事業戦略
2017年8月23日 21:08
【最終回】「電力自由化」に続くかたちで、2017年4月から始まった「ガス自由化」。「ガス自由化」によって、私たちの生活は何が変わるのでしょうか? そもそも「ガス自由化」とは、何を目的に、どのような経緯でスタートしたのでしょうか?本連載では、「ガス自由化」と今後のエネルギー業界の動向を解説します。
本連載は2017年6月に発売した江田健二氏の書籍『かんたん解説!! 1時間でわかる ガス自由化入門』を許可を得て、編集部にて再編集し掲載しています。via かんたん解説!! 1時間でわかる ガス自由化入門 (NextPublishing) | 江田 健二 | 工学 | Kindleストア | Amazon
電気・ガスの自由化によって生まれた、総合エネルギー市場
最後のまとめとして「電力とガスの今後」について考えてみましょう。
電力自由化に続いて、ガス小売が全面自由化されたことにより、エネルギーインフラ市場の垣根は撤廃されました。これにより、エネルギー企業の相互参入や異業種からの新規参入が進むと考えられます。
また、競争によるコスト低減が実現し、消費者の利便性が向上していくことが期待されます。
さらに将来的には、国内市場に閉じることなく、総合エネルギー企業による海外市場への進出が期待されています。
暮らしを便利にする料金プラン、多様な企業が強みを見せる
私たちの生活と直接的に関係する料金プランについても、今後は市場競争が新しい知恵を生み、様々な特徴を持ったものが生まれてくるでしょう。
現状で電力料金プランの特徴を大別すると、次の6種類になります。
1 段階別料金
2 ライフスタイル型
3 他サービスとのセット
4 長期契約
5 節電
6 電源構成
特に3の「他サービスとのセット」は異業種間の連携も盛んであり、電気自動車やリフォームとの連携、スポーツやアニメとのタイアップなど、多種多様です。
多様なニーズを持つ消費者からすると、ガスにおいても電力のようにプランが増えていくことが望ましいです。
また電力においても、技術やニーズの変化により、これまでにない新しいプランが今後も生まれることが期待されます。
技術進歩の加速と多様な業種のノウハウが、エネルギー業界に
エネルギーの自由化によって競争が生まれる利点としては、技術面の部分も挙げられます。
技術の進歩がエネルギー業界を変革していくスピードが加速していくと考えられます。
電力の分野でいえば、例えば、発電部門においては、火力発電所においてIoTの活用による保守業務の効率化や運転効率の最適化の取り組みが始まっています。
また、送配電分野においても、デジタル化等による修繕・投資の効率化や保守・監視の取り組みが行われつつあります。例えば、送電線や鉄塔の巡視・点検ではドローンを使用することで、高所の送電線や鉄塔上部の画像を撮影することができます。そうすることで、迅速な状況把握・作業時間の短縮・安全性の向上につながります。
小売分野に関しても、スマートメーターの導入を契機とした新しいサービスの創出に向けた取り組みが行われています。
例えば、ヘルスケア分野では、電力利用データに加え、天候情報や健康情報を用いることで、家電を最適に制御することが想定されます。そうすると、猛暑が予定されている日にエアコン等を自動制御することで、年配の方や子どもの熱中症を予防することが可能となります。
今後はこうした流れが、ガス事業も巻き込んで広がりを見せていくと期待されます。
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エネルギー全体を見据えた事業戦略の必要性
これからは、ガスはガス、電力は電力といったものではなく、エネルギー全体を俯瞰した事業戦略が求められていくでしょう。
それは、必ずしも「ガスと電力の双方を事業に直接取り入れる必要がある」というわけではなく、例えばガスに特化したビジネス形態であっても、常にエネルギー全体の動向を押さえておく重要性が増したということです。それは、ガスと電力は代替できる場合も多く、これまでとは異なり市場が分断されていないからです。
電気とガスの自由化によって市場間の壁が取り払われることで、あらゆる可能性が生まれると考えられます。
それは、これまで見てきたように企業の海外進出や魅力的な料金プラン、そのほか技術革新など多種多様です。ガス小売の全面自由化が実施されスタート地点に立った今、5年後、10年後には現時点では思いもつかないようなアイディアが生活を豊かにしていることが期待されます。(本連載は今回で終了です) 元のページを表示 ≫