再び注目のLRT、都市交通を再編するか?
2017年8月16日 17:34
路面電車が地下鉄になり、主要地方都市では公営化され始めてから既に数十年が過ぎた。その利便性、建設費用が安く抑えられること、欧州でのLRT(Light Rail Transit)普及も相まって、日本でも20年ほど前から建設に動く計画がいくつか立ち上がった時期があったが、前に進まなかったものも多い。
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英国でLRTに関する情報を取りまとめている第三者団体、ライトレール交通協会(Light Rail Transit Association、LRTA)によれば、既にある日本のいわゆる路面電車のうち、乗降口が低く道路とほぼ同水準といえる低床車輛といえるのがLRTの定義とされ、該当するのが、江ノ島電鉄(神奈川)、広島電鉄宮島線(広島)、筑豊電気鉄道(福岡)、京福電気鉄道(通称「嵐電」、京都)、東急世田谷線(東京)、阪堺電気鉄道(大阪)の6路線とされる。また、日本での建設計画の中で実際に建設された富山ライトレールは「トラムトレイン」に区分されているほかは、既存の路面電車はElectric Light Railways(電気軽便鉄道)に区分される。
LRTという用語の発祥は東西統合前の西ドイツだが、アメリカで1970年代、車の急速な普及により移動手段に事欠くようになった低所得者向けの交通手段の確保として、都市部で廃線になった路面電車の設備を再利用しようという施策の元、これらを総称して呼ぶようになったのが始まりである。
日本での都市化と高齢化、一方で市街地中心部の空洞化などの社会問題を解消していく手段の一環として、LRTは再び注目される日は来るのだろうか。実際に、架線なしのバッテリー駆動で動くLRTが開発された例はあり「ハイ!トラム」(鉄道総合技術研究所ほか4社参画)や「Swimo」(川崎重工業)などがそれである。
大電力に頼る高速鉄道の代表選手、新幹線や、開発中の中央リニア新幹線が発電所、変電所と架線の維持が欠かせないのに対し、LRTの強みは小型化・蓄電池化が可能なことである。こうした強みを活かすべく開発されたとみられるSwimoは、大型ニッケル水溶電池「ギガセル」を搭載することで架線不要となり、出力があまったときに発電しながら蓄電池に蓄える回生電力システムも備えている。
出力の安定化は再生エネルギー発電システムに共通する課題だが、安定化機器を備えた蓄電池の開発が脚光を浴びつつある中、鉄道事業の中にあって地位を確立する方向に進むであろうか期待をかけてみたい。(記事:蛸山葵・記事一覧を見る)