日本が抱える金融環境の歪み ソーシャルレンディング成長の一方で

2017年6月26日 21:00

 25日付の日本経済新聞に「ベンチャー融資 ネットで 高利回り、残高1000億円へ 銀行の隙間埋める 」という表題の記事が掲載されている。要旨は、新規のベンチャー企業など銀行の融資対象になれない事業者が、ソーシャルレンディング(注1)という手法で資金を調達していること。需要は旺盛で近年の伸びは大きく、融資利率も高率であることから投資家の関心も高いこと。反面、貸金業法等の制約により投資家が貸出先企業名を知ることができないため、リスクが大きいことに集約される。

 この記事には、最近の銀行を取り巻く環境の歪みが、見事に焙り出されている。銀行に対する一般的な認識は、金余りのマイナス金利政策のもと、借入を希望する企業の争奪が行われ、やっと獲得した融資もごくわずかの利ザヤしか生み出さないため、非常に厳しい環境に置かれているということだろう。

 この認識は一面では正しい。しかし、満点ではない。

 銀行はバブルの後遺症で、手足をがんじがらめに縛られて営業してきた。その縛りの一つが新規の事業先やベンチャー企業に対する融資の制約だ。銀行は「堅い」と周知されている通り、どんな先に対しても事業計画や過去の実績を横並びで求める。新規事業先やベンチャー企業には、事業開始のためにやらなければならないことは山ほどある。銀行に借入の申し込みをすることはそのうちの一つに過ぎない。しかし、銀行の求める条件は数多く複雑で、要求をこなせる企業はわずかである。つまり、必要な時に必要な資金を借入できない、ということになってしまうのだ。

 融資残高が1000億円になんなんとし、その金利が8%にもなるソーシャルレンディングのマーケットが目の前にあるというのに、銀行が対応できないのはいかにも歯痒い。今までの延長線上で発想していては、いつまで経っても状況は変わらない。金融庁も金融検査マニュアルの廃止を決断したタイミングである。良質な資金で、新しい業態や業種の企業が生まれるようになれば、日本経済に力強い活力を生み出す。新しい仕組みを整備して、新規・ベンチャー企業が事業に邁進できる環境を作る、まさに好機ではないだろうか。

 (注1)ネット上で小口の資金を募り、ベンチャー企業などに貸し出す仕組み(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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