免疫疾患発症のリスクを可視化 免疫機能の個人差に関わる遺伝子カタログ
2017年6月15日 11:52
近年、ゲノムワイド関連解析(GWAS)によって免疫疾患発症に関与するDNA多型(リスク多型)が多く同定されている。免疫疾患発症のメカニズムには、免疫機能の個人差の積み重ねが深く関わっていることがわかってきているが、どの免疫細胞において、どの遺伝子の発現量に影響しているかは十分に解明されていない。今回、理化学研究所、東京大学医学部附属病院らの共同研究チームは、免疫機能の個人差に関わる遺伝子カタログを作成し、免疫疾患の遺伝的メカニズムの新しい解析手法を開発した。
共同研究チームは、105人の健常人から5種類の主要な免疫細胞を回収し、遺伝子発現量の個人差を次世代シーケンサーの活用で網羅的に解析。5種類の主要な免疫細胞における免疫機能の個人差について、遺伝子の制御関係を総合評価し一つの活性情報に集約し、免疫機能の個人差に関わる遺伝子カタログ(eQTLカタログ)を作成した。
eQTLカタログでは、どのDNA多型が、どの免疫細胞において、どの遺伝子の発現量に、どのように影響しているかが要約されている。例えば、主要免疫細胞のひとつ「CD4陽性T細胞」における「TNFパスウェイ(炎症反応や細胞生存、細胞死を誘発するサイトカインによって生理活性される遺伝子やタンパク質の集合)」の活性化は関節リウマチの病態で重要な役割を持つことが確認できた。eQTLカタログや解析手法は、関節リウマチなどの自己免疫疾患に加えて、花粉症・喘息・がんなどの免疫が関わる多くの疾患に適応することが可能とのこと。
eQTLカタログは欧米でも作成されているが、複数の免疫細胞を対象とした研究はアジアでは今回が初の試みとなる。これまでの研究の多くは血液の白血球をまとめて解析するものだったが、今回の研究ではそれぞれの免疫細胞を分けて解析している。発現量の調整メカニズムは細胞種ごとに異なるため、細胞種を分けることでリスク多型がどの細胞で発現量の個人差に影響しているかが分かる。
今回開発した病態解析の新手法では、eQTLカタログを応用することで、リスク多型によって生じる遺伝子の発現量の亢進・低下に注目し、複数のリスク多型の影響を総合的に評価するのが特徴。ほとんどのリスク多型は単独では疾患発症に微々たる影響力しか持たないため、個々のリスク多型を独立に評価しても、免疫疾患の遺伝的メカニズムの全体像は理解できなかった。今後は、同手法によって解明される遺伝的メカニズムに基づいた創薬及び治療法の開発への貢献に期待したい。(編集担当:久保田雄城)