【小倉正男の経済羅針盤】トランプ大統領:都合よすぎるFBI長官解任
2017年5月18日 12:42
■「ロシア疑惑」でクライシスに直面
北朝鮮をめぐる危機はとりあえず少し遠のいたが、今度はアメリカのトランプ大統領がクライシスに陥っている。大統領選挙時からの芳しいとはいえない「ロシア疑惑」が、トランプ大統領の『致命傷』になりかねない。
トランプ大統領は、コミーFBI(連邦捜査局)長官を解任した。解任の理由は、「目立ちたがり屋」という曖昧で抽象的なものだった。コミー氏としては、「アンタにだけはそう(目立ちたがり屋)言われたくない」という思いではなかったか。
その際、トランプ大統領は、コミー長官(当時)に自分が捜査対象ではないことを確認し、コミー長官に捜査対象ではないと言わせたことを明らかにしている。もちろん、これは「ロシア疑惑」についてということである。
突然、トランプ大統領がコミー長官を解任したのは、FBIの捜査を懸念したためではないか、と思われるのがオチである。ところが、コミー氏の言葉を借りて、自身が捜査対象ではないと身の潔白を語っている。都合がよすぎるわけである。
さらにトランプ大統領には、コミー長官にフリン大統領補佐官(ロシアとの不透明な関係で辞任)の捜査を止めるように求めたという疑惑が出ている。
そのうえトランプ大統領は、ロシアのラブロフ外相にIS(イスラム国)がらみの機密情報を漏らしたといわれている。 この機密情報は、第三国(イスラエル)からの情報であり、大統領の資質が問われかねない振る舞いになる。これも新たに「ロシア疑惑」に加わることになる。
■子供じみた権力乱用
トランプ大統領は、何度もクライシスを逃れているが、今回はどうだろうか。
NY株式市場は、トランプ大統領の政権運営、そして先行きの政策実現についての不透明感から一気に気迷いを見せている。為替もドル安(円高)トレンドになっている。
トランプ大統領にしてみれば、FBIの捜査に介入する、あるいはFBI長官の解任するのは自分の権限内であり、何が悪いのか、ということかもしれない。 しかし、ほかならぬ自分ないし自分の陣営に対する疑惑であり、捜査主体と推定されるFBIに介入するのは権力乱用というか身勝手すぎることになる。
要するに絶対権力者の子供じみた乱暴・粗暴――。やや前代未聞だが、これでは「弾劾」による大統領の罷免ということもありえない話ではなくなる。
トランプ大統領は、「フェイクニュース」という言い方で事実・真実を一方的に判定してきた。しかし、事実・真実を判定するのは大統領ではなく、大統領が判定されるサイドに立たされることになりかねない。
■「トランプ崩れ」のクライシス
ロシアへのISに関する機密情報漏洩もトランプ大統領は何故それが悪いのだと言うに違いない。
しかし、これはイスラエルなど機密情報の提供先との信頼関係にヒビが入ることになる。下手をすれば、提供先に深刻な危害・危険を及ぼすことになる。 ロシアからほかの第三国に情報が流れたらアメリカの信用は地に落ちる。次からは情報は絶対に入ってこなくなる。
トランプ大統領のディール感覚は、よい面もあるだろうが、見境なく使えば問題が生じる。 おそらく、トランプ大統領にはこれらにとどまらず、これまでそうだったように問題は次々に出てくるに違いない。「トランプ崩れ」――、そのクライシスに備える必要を内包している。
単純な話、メディアをこれだけ敵に廻してサバイバルできるだろうか。それこそ前代未聞の大統領であり、なかなか先行き楽観できるようには思えないのだが・・・。
(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシスマネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、名古屋支社長・中部経済倶楽部専務理事、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任して現職)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)