パワー半導体SiC、25年までに6.9倍の成長 市場牽引する日本企業の最新技術
2017年5月14日 19:58
IT技術の発展と省エネは、決して切り離して考えることはできないものだ。
今や、我々の生活はIT技術に支えられているといっても過言ではない。身近な交通機関や自動車、住宅もIT技術の塊のような世の中。経済や産業分野も最新のIT技術に支えられている。しかし、その一方でエネルギーの消費量も飛躍的に伸びている。そこで、省エネ効果の救世主として期待されているのが、SiC(炭化ケイ素)やGaN(窒化ガリウム)などの次世代パワー半導体だ。
市場調査会社富士経済の調査によると、次世代パワー半導体の2016年の世界市場はSiCとGaNの合計で219億円。2025年には8.5倍の1860億円まで拡大すると予測している。中でも、6インチウエハーの本格投入が始まったSiCパワー半導体はすでに、これまでのSiパワー半導体に代わる主流としての地位を築いており、2025年予測では1410億円、6.9倍の成長が見込まれている。
ところで、そもそも、パワー半導体とはどういったものなのだろう。
半導体といえば、一般的には演算や記憶などの作業を行うCPUやLSIを連想することが多いが、パワー半導体はそれらとは役割が違う。同じ半導体ではあるものの、CPUやLSIを動作させたり、モータを駆動させたり、バッテリを充電したり、電源の制御や供給を行う。交流を直流にしたり、電圧を降圧したりするのも、このパワー半導体の基本的な仕事だ。炭素(C)とケイ素(Si)の化合物であるSiCの最大の特徴は、従来のSi半導体に比べてバンドギャップが3倍、絶縁破壊電界強度が約10倍高くなっている点、また,熱伝導性や耐熱性、耐薬品性、耐放射線性においてもSi半導体より優れていることから、小型,低消費電力,高効率のパワー素子,高周波素子,耐放射線性に優れた半導体素子として需要を伸ばしてきた。現在では、電力、輸送、家電のみならず、宇宙・原子力分野でもニーズが高まっている。
そんな中、日本におけるSiCパワー半導体のリーディングカンパニーであるロームは先日、産業機器用の電源、太陽光発電パワーコンディショナーやUPS等のインバータ、コンバータ向けに1200V 400A、600A定格のフルSiCパワーモジュールの開発を発表した。同製品は同社独自の内部構造と放熱設計により、600A定格を実現。産業機器用の大容量電源など、より大電力アプリケーションへの検討が可能だという。また、一般的な同等電流定格のIGBTモジュール(Intelligent Power Module)と比べてスイッチング損失を64%低減(チップ温度150℃時)することに成功し、アプリケーションの省エネ化に貢献する。さらに、冷却機構での損失シミュレーションに基づく試算において、水冷ヒートシンクを88%小型化することにも成功したという。
今回のラインアップ拡充によって、主要な電流定格レンジである100Aから600AまでをフルSiCモジュールでカバーできることになり、製品の更なる小型化や高効率化が可能となり、設計も楽になる。さらなる需要の拡大も見込まれるだろう。
次々世代の半導体といわれる酸化ガリウム系半導体も、インフラへの搭載や過酷な超高温環境下での使用を有望視されてはいるものの、ようやく実用化段階に入ったばかり。しばらくは、SiCとGaNが市場の主流となるだろう。ロームをはじめ、日本の半導体メーカーの活躍に期待したい。(編集担当:藤原伊織)