深層学習で軽度認知障害からアルツハイマーへの移行を81%の精度で予測
2017年5月7日 21:06
物忘れが増加するが認知症のように日常生活を送るうえで大きな支障が出るわけでもなく、そのために気づかれにくいといった特徴を持つMCI(軽度認知障害)は、5年で約半数が認知症に進行することから「認知症予備軍」といわれている。厚生労働省の推計によると、65歳以上の高齢者のうち軽度認知障害は400万人で、認知症の462万人と合わせるとなんらかの認知障害を持っている高齢者は4人に1人の割合となる。軽度認知障害では、進行を遅らせるために早期の治療が重要で、これにより1割ほどで正常な認知機能を取り戻すとのこと。2025年には認知症は最大750万人になるという試算もあるなか、軽度認知障害の診断・治療精度の向上は喫緊の課題となっている。こうしたなか、韓国の天安公衆衛生センターの研究者らが、深層学習により軽度認知障害からアルツハイマー病に進行する人を81%の精度で予測できることを発表した。
軽度認知障害や認知症の診断はMCIテストなどの質問法によるものや、MRI、PETを用いた脳検査により行われる。このうちある特定のPETでは、アミロイド斑と糖代謝の状態がわかるため、アルツハイマー病を発症する可能性の高い軽度認知障害の人を特定するのにも有用となる。ただし、スキャン画像の解釈が難しく、熟練の診断医による診断が必須だった。そこで、天安公衆衛生センターとKAIST(韓国科学技術院)の研究者らは、PETによる検査過程における人間の解釈をニューラル・ネットワークによるものに置き換えた。近年、世界中の医療機関・研究機関でアルツハイマー病の発症者と未発症者の脳の画像データベースが構築されている。同研究者らは、蓄積された画像データセットに対して画像を用いた深層学習で多用される手法「畳み込みニューラル・ネットワーク」による訓練を実施。アルツハイマー病発症と未発症の違いを約90%の精度で識別できるようになったほか、アルツハイマー病を発症する可能性の高い人を81%の精度で識別することに成功した。この値は、熟練の診断医の診断による識別精度より著しく高いとのこと。
がんや心臓病の診断でも活用が進められるAIだが、軽度認知障害の診断への応用が広がることによる認知症予防への貢献は計り知れない。(編集担当:久保田雄城)