「分断勤務」という自営業的な働き方には、向かない性格の人もいる

2017年4月26日 11:52

 NTTドコモが、1日の勤務時間を分けて働ける「分断勤務制度」を導入することを決めたという話題がありました。
 すでに導入済みのテレワーク制度と合わせて、例えば、社内で5時間働いて、帰宅後に自宅で2時間働くなど、1日の所定勤務時間(7時間半)さえ満たせば、時間や場所にとらわれずに働けるということです。
 働く時間帯を柔軟に設定できることで、深夜作業や海外対応への考慮がしやすくなり、子育てや介護を抱える人にもメリットがあるとのことです。

 これを見て私が一番初めに思ったのは、「私たちのような自営業者の働き方と同じ」ということです。
 私たちには1日の所定労働時間などという縛りはなく、その分自由度の高い働き方ができますが、代わりに確実に保障された報酬もありません。
 時間や場所に多少の縛りがあったとしても、雇用関係による身分の安定と、毎月一定の収入が保障された状態で、私たちと同様な働き方ができるというのは、ある意味うらやましい感じもします。

 柔軟な働き方が指向される流れは、これからも当分変わらないのだと思いますが、ここで私が気になるのは、会社で働く、雇われるということに慣れた人たちが、果たしてこの「自営業的な働き方」になじめるのだろうかということです。

 もう5年以上前なので、そのころからは意識がずいぶん変化していると思いますが、あるセミナーで講師をしたとき、「在宅勤務をやりたいか」という問いに対する反応は、やりたい人とやりたくない人の割合がほぼ半々で、やりたくないと答える人が、思いのほか多いと思ったことがありました。

 どちらかと言えば男性の方が後ろ向きな人が多く、その理由は「家に帰ってまで仕事なんて冗談じゃない」「家はくつろぐところで、仕事をやるスイッチが入らない」など、家では気が乗らないという本人の気分の問題や、「ずっと家にいるのは気が滅入る」「“会社”“仕事”という最も正当な外出理由を手放したくない」など、在宅しなくないというようなものもありました。

 こんな家族観や職業観も、今は少なくなってきていると思いますが、本音ではこんなことを思っている人もまだまだいるのでしょう。

 さらに「自営業的に働く」ということには、かなりの自己管理的な要素が含まれてきます。これについて、私は本人の性格や資質に左右されることがかなり大きいと思っており、向いている人といない人、もっと言うとできる人とできない人で、大きな差が出てくるのではないかと思っています。

 「分断勤務」で考えられる効果として、良い面で言えば生産性アップ、時間効率のアップということですが、これは売上増につながるような生産性向上とは少し違いますし、急に人件費が減るというものでもありませんので、大きな利益貢献も考えづらいでしょう。

 逆にマイナスの影響があるとすれば、これは自己管理が苦手な社員たちの行動の問題です。本当の自営業であれば、自分のさぼりは収入に直接影響してきますから、自己管理が必須というインセンティブが働きますが、そうでなかったとすると、自己管理ができない人はどんどんそのままの方向に引きずられていきます。これは会社の業績悪化につながってしまうでしょう。
 ここでは、仕事の成果を問う、評価を明確にするといったことで縛りをかけていくのでしょうが、これもやり過ぎると、制度本来の意義がなくなってしまいます。

 「働き方改革」で、特にワークスタイルに関する部分を見ていくと、社員個人に「自営業的」な自己管理を求められているところが多いように思います。ここ最近、米国系の有名企業でリモートワークの制度をやめるところが出ていますが、たぶんこのあたりに問題があったのでしょう。

 日本人は比較的真面目だということで言えば、そこまでの問題にはならないかもしれませんが、「自己管理が苦手な人」への自由度を高めるということに関する心構えは必要です。

 ダメな自営業は個人の責任でつぶれるしかありませんが、会社はそうはいきません。在宅勤務や分断勤務で業績が下がってしまっては、まさに本末転倒です。
 「働き方改革」での制度設計や社員の指導には、まだまだ多くの工夫が必要だと思います。

※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら

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