やはり守られない「採用指針」は、もう無くしても良いのではないか?
2017年4月24日 11:44
来春入社の新卒採用について、経団連の「採用指針」で定められた時期によらず、すでに内定が続々と出され、前年比でもその率が急上昇しているという報道がありました。
人手不足の中、企業は優秀な人材確保のため、内定を前倒しして囲い込みを進めているということです。
以前の「就職協定」から、その後は「倫理憲章」の呼称で緩やかなガイドラインが作られ、さらに平成25年からは成長戦略の一環として、「世界に通用する人材育成のために、学生の就職活動期間を短縮して学業に専念できる時間をより長くする」という政府の要請により、拘束力を強めた「採用選考指針」となって今に至ります。
ただ、この要請のころは就職氷河期だったこともあり、就職活動が長期化する学生が続出して、学業に支障が出てきていたという事情がありました。
開始時期を遅らせるという方法が適切だったのかには疑問がありますが、就活に苦労して落ち着いた学校生活を送れない学生たちを目にしていた中では、そういう規制もやむを得ないと思っていました。
しかし、ここ数年は売り手市場の傾向が強まり、今年は私の周りでも、すでに内定をもらったという学生が思った以上にどんどん出ています。内定先も、まさに経団連に加盟しているような企業なので、指針が明らかに有名無実化していることがわかります。
ただ、だからといって、これで誰かが困っているかというと、実際にはそうでもありません。学生は早く就活を終えて学校生活に集中できますから、採用指針自体の目的は達成されています。大変なのは企業側の採用担当ですが、こればかりは自社の目標達成に向けて動くしかありません。採用活動はそもそも他社との競争であり、このこと自体は環境がどうであっても変わらないことです。
しいて困った人がいるとすれば、それは「採用指針」を真面目に守ろうとした人たちで、特に企業側には出遅れて機会を逸しているところがあるかもしれません。ただし学生側の出遅れは、今年についてはあまり問題なく収束すると思われますから、それほど困ることはないでしょう。
ここで、もう言い尽くされている今さらな話ですが、「そもそも企業による青田買いはいけないことなのか」ということです。
かつて言われたのは、「過剰な囲い込みが学生に自由な活動を阻害する」ということでしたが、売り手市場での選択権は学生主導なわけで、企業がどんな囲い込みをしたとしても、最終的に決めるのは学生の側です。
また、「就職を目標に大学を選んだ者は、早期内定するとその後勉強をしなくなる」といったものもありましたが、今はどんな大企業でも入社がゴールではありません。定年まで勤めあげるケースは減ってきていますし、学ばずに会社にしがみつこうという戦略が大いなるリスクになることを、多くの学生は理解しています。
例えば、アルバイトに来ている大学一年生に、「卒業したらうちに就職しないか?」と声をかけて、それを本人が受け入れたとしたら、相当な青田買いには間違いありませんが、これが良くないこととは到底思えません。何か問題があるとすれば、例えばその後本人の心変わりがあって、それを会社が受け入れずに変な仕打ちをするとか、本人の意思に反した囲い込みをするとか、そんな非常識なことくらいでしょう。
そもそも、4年も5年も先の採用を確約するというのは、企業としてはやりづらいですから、青田買いといっても、せいぜい1、2年先くらいまでの話でしょう。
少子化で学生の数は徐々に減っていくことがわかっていますし、労働人口自体も減る中で、就職活動における売り手市場の傾向は、基本的には今後も変わらないでしょう。企業の採用活動は長引きやすくなり、新卒採用も一括採用から通年採用の方向に変わっていかざるを得ないと思います。
新卒の一括採用には、社員を自社の色に染めやすい、初等教育が効率的といった利点がある一方、自社に染まってもらう前提なので、ミスマッチに学生側が無理して合わせようとしていることがあります。
それを防ぐために、本来の意味でのインターンシップなどが活用されればよいですが、これすら青田買いだとして規制しようという動きがあると聞きます。
採用活動の現場でも、俗に言われる“ゲームチェンジ”は進んでいます。それに見合わない協定、指針はもういらないと思います。
※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら。