たった一晩!?の恋物語『夜は短し歩けよ乙女』、森見×湯浅ワールド全開のエンターテインメント映画
2017年4月23日 21:53
記事提供元:アニメコラムサイト|あにぶ
時間とは全ての人間に平等に与えられているが、不思議なことに時間の感じ方というのは人間によってさまざまに変化します。
退屈なことをしている時間は長く感じたり、逆に楽しいことは短く感じたり。子どもの頃は一年がとても長く感じられ、大人になるにつれて「一年ってあっという間だったな」と感じる。
心理学的にジャネーの法則と言われているのですが、その話はさておき。
今回は、そんな一年間の出来事がまるでたった一晩の出来事であったかのように感じてしまう「黒髪の乙女」と、そんな彼女に恋をして、まるで一晩の出来事であったかのような一年間を振り回され続ける「私」の、不思議な”たった一晩の”恋物語『夜は短し歩けよ乙女』をご紹介していきたいと思います。
■原作は森見登美彦さんのベストセラー小説
原作は、アニメ化もされた『四畳半神話体系』や『有頂天家族』で知られる森見登美彦さんの小説。
第20回山本周五郎賞を始め多くの賞を受賞した、このベストセラー小説をアニメ『四畳半神話体系』を手がけた湯浅政明監督の手によってアニメ映画化されたのが本作です。
後輩の「黒髪の乙女」に一目惚れした「先輩」は、偶然を装い彼女の目に触れるところに現れ続け、まるで運命だと勘違いさせて外堀から埋めていく作戦、通称『ナカメ作戦』をとっていました。
しかし、そんな「先輩」の想いにも気付かぬまま彼女はどんどんと違うところへ行ってしまい、行く先々で様々なことに巻き込まれていきます。
京都を舞台に、彼女と「私」が体験した、一年間のような一晩、はたまた一晩のような一年間を描いた情熱的で、とてもポップで、ちょっと不思議な恋の物語。
■独特の言い回しと「黒髪の乙女」の可愛さ
森見作品の特徴といえば、主人公兼語り手である「私」による”語り”。
『四畳半』や『有頂天家族』でも描かれていたことですが、この『夜は短し歩けよ乙女』では他二作品とは少し異なり基本的には”彼女”の視点や語りを中心に、先輩と彼女の視点を繰り返しながら物語は進んでいきます。
森見登美彦さんならではの独特の言い回しや、古い文学書のようなセリフだったり、そして時にユーモラスな表現だったりと、黒髪の乙女のキュートさを花澤香菜さんが見事に表現していて、まあとにかく可愛い。これに尽きると思います。
■圧倒的なスピード感とテンポのよさ
本来、原作小説では季節ごとに巡る4つの短編なのですが、この映画版ではあえてそれらを繋げて一つの物語としています。
この、一つの物語にするということで圧倒的なスピード感とテンポ感が生まれて、観ている側としてはどんどんと切り替わる話の展開にワクワクとさせられます。
そして、この作品はおよそ100分という短い時間の中に様々な伏線が散りばめられており、それらをテンポよく回収していく様が非常に気持ちのよい作品です。
作中で1番最初に風邪を引いてたいたキャラクターは…?暴風雨で舞い上がった鯉が…これ以上言ってしまうとネタバレ全開なのでやめておきましょう。
一つ一つ季節ごとに物語が独立しているようで、実は全てが繋がっているということにどんどんと気付かされる瞬間がめちゃくちゃ面白いんです!
そしてもう一つが、一つの物語にすることで生まれる『時間感覚の曖昧さ』。
作中では時間帯が一貫して”夜”で進み、物語の起承転結や季節の境目を非常に微博に描いています。
さらにスピーディに転換される場面やファンタジーな映像演出に、受け手は「あれ?いつの間にか季節が変わってる?それとも本当に一晩の出来事だった?」と不思議な感覚を得られるのです。
上映時間内でアニメとして収めなければならないという、尺の都合ももちろんあるかもしれませんが、まさにこの時間感覚の曖昧さこそがアニメーションならではの表現であり、湯浅監督の映像演出のうまさだと思います。
■個性が強すぎるキャラクターにも注目
主人公の1人である黒髪の乙女が可愛いと述べましたが、この作品には、森見ワールド全開の個性的なキャラクターが次々と現れてきます。
特に同じ森見作品である『四畳半』のキャラクターが登場したりと、なにかとリンクしている部分の多い作品なので、他作品を知っているとよりキャラクターが出てきた時に「あー!」となれて楽しめます。
とても個性的な森見登美彦さんの小説を、湯浅政明監督がさらに独特のアニメーションに落とし込んでいる、まさに最高のエンターテインメント映画『夜は短し歩けよ乙女』。
原作ファンも、初見の方ももちろん楽しめる作品に仕上がっていますので、ぜひご覧下さい。
(あにぶ編集部/Uemt)
(C)森見登美彦・KADOKAWA/「ナカメ」の会