食品スーパー、懸命な経営努力もあり地方勢の業績伸びる
2017年4月17日 07:40
■消費の低迷で食品スーパーよ、おまえもか
4月12日、食品スーパー業界主要各社の2017年2月期本決算がほぼ出揃った。
地元密着型の中・小型店舗の食品スーパーは、世帯が高齢化すると生鮮食料品の購入先は遠くのGMS(総合小売店舗)から近くの食品スーパーへのシフトが起きるため、大手流通グループのGMSの苦境をよそに「高齢化社会の勝ち組になる」と言われた。しかし、2017年2月期は総務省の「家計調査」の二人以上世帯の実質消費支出が全ての月でマイナスになるなど個人消費が低迷したため、さすがの食品スーパーもその影響を免れることはできなかった。
日本スーパーマーケット協会など3業界団体が加盟270社のデータを集計した「スーパーマーケット販売統計調査(速報値/既存店ベース)」は、メディアでは毎月「食品スーパー売上高」として紹介されている。それによると、2016年3月から2017年2月までの間、全国的にみて既存店総売上高が前年同月比マイナスだった月は5、8、9、2月の4回で、その前の2016年2月期が3月の1回だけでその後11ヵ月連続プラスだったのと比べると、明らかに売上の伸びが鈍化した。
集計時期は2ヵ月前にずれるが、2016年通年の既存店売上高は+0.8%で、3年連続のプラスにはなったものの2015年の+1.5%から増収幅が縮まった。個人消費が伸びず小売業全体がふるわない中で、「食品スーパーよ、おまえもか」という結果だった。
食品のカテゴリー別では、夏の日照不足で不作になり10月以降に高騰した野菜が売上全体をけん引。年間を通じ畜産品、惣菜の価格は安定したが、水産物が良くなかった。プライベート・ブランド(PB)は各社とも、節約志向が高まる中で好結果を残している。
2、3年ほど前は関東や中部が良くても北海道、東北、中・四国、九州が悪いなど、食品スーパー業界内で大都市圏と地方の差が歴然としていたが、直近のデータではその差がだいぶ埋まっている。食品スーパー大手の業績を見ても地方勢の健闘が目立っている。それはアベノミクスの「地方創生」の成果と言うよりは、消費増税後の落ち込みからの回復が遅かった地方でも個人消費がようやく元に戻ってきた上に、各社の懸命の経営努力が増益という形で結果を出しはじめた、と言ったほうが正確だろう。
■大都市圏でも地方でも大幅最終増益が並んだ
大都市圏、特に首都圏の食品スーパー大手の業績は相変わらず2ケタの最終増益、最高益更新が目立つ。そうでない場合も営業不振ではなく、何らかの特殊要因による。
首都圏に店舗網を持つ食品スーパーは、いなげや<8182>は3月期決算だが、通期見通しは営業収益1.0%増、営業利益29.2%減、当期純利益57.8%減。年間配当予想は15円で据え置き。新規出店効果で増収でも、6月に稼働した精肉センターの投資負担に加え、出店増に伴うパートタイマーの人手不足が深刻で残業代や人材派遣のコストがかさみ、4~9月期で営業赤字を喫するなど利益が圧迫されているという。
2015年3月にカスミ、マックスバリュ関東、マルエツが経営統合して発足したイオン系のユナイテッドスーパーHD<3222>の2年目の業績は、営業収益3.2%増、営業利益2.1%増と順調で、当期純利益37.9%増。機能性ヨーグルトや、惣菜など「中食」需要が快調で既存店売上高はプラス。マルエツ、カスミで22店舗出店した増収効果で人件費増を補った。当期純利益は固定資産の売却などで特別利益を計上し当初の会社予想を大きく上回った。年間配当は14円で据え置き。
埼玉県を中心に店舗展開するベルク<9974>は首都圏らしくワイン、パスタなど低価格・高品質の輸入食品が好評。営業収益6.9%増、営業利益9.0%増、当期純利益18.5%増。年間配当は9円増配の60円。2016年2月期に比べて営業収益、営業利益、経常利益のプラス幅は2ケタから1ケタに下がったが、食品スーパー業界トップクラスの好業績が続く。店舗の効率化で業界の先頭を走り、客数、客単価、既存店売上高とも前期比プラスの高収益体質が定着している。
東武ストア<8274>は売上高0.9%増で2016年2月期の減収から増収に転じた。新規出店や改装の効果。営業利益は逆に2ケタ増益から減益に変わり0.5%減。パートタイマーの採用難や社会保険の適用拡大による人件費コストが利益を圧迫した。当期純利益は47.6%減だが、2016年2月期はその前の減益から172.8%増へV字回復を果たしたので、その反動が出ていた。年間配当は2016年2月期の5円に対して27.5円だが、9月に「10株→1株」の株式併合を実施しているので、実質的には据え置き。
関西が本拠の食品スーパーだが首都圏店舗も多いライフコーポレーション<8194>は2017年2月期から連結決算に変更した。初年度は営業収益6529億円、営業利益126億円、当期純利益81億円。営業収益は当初の会社予想を若干下回ったが、営業利益、当期純利益は上回った。年間配当は30円で据え置き。単体決算(個別決算)で2016年2月期と比較すると、営業収益は3.6%増、営業利益は3.4%増、当期純利益は10.0%増。2016年2月期の増収、大幅増益に比べればペースダウンしたものの増収増益を維持し、当期純利益は3期連続で最高益を更新している。消費者の節約志向にエブリデー・ロープライス戦略で対抗しているが、人件費コストの増加が利益の足を引っ張っている。
近畿圏中心のオークワ<8217>は、営業収益は0.1%増、営業利益は11.8%増、当期純利益は83.2%増で、2016年2月期の減収、営業減益から業績が大きく改善した。当期純利益は2015年2月期の4700万円から14億7600万円へ、2期で31.4倍も伸びた。節電や節水など経費管理を徹底したこと、グループの施設管理会社を連結対象としたことなどで3期連続最終増益。年間配当は26円で据え置き。
2017年2月期の食品スーパーの業績の特徴は「地方勢の健闘」だろう。地方圏の個人消費の出遅れが解消した模様で上位クラスから減収決算が姿を消し、2ケタ、3ケタの最終増益もあらわれている。
2016年2月期に旧ダイエー(函館地区)、旧いちまる(十勝地区)の店舗を受け継いだイオン系のマックスバリュ北海道<7465>は、営業収益は12.3%増で過去最高。営業利益は17.7%増だが当期純利益は22.8%減の2ケタ増収、2ケタ営業増益、2ケタ最終減益だった。年間配当は2円増配して17円。旧ダイエー店舗を改装して増収の結果を残すなど積極的な店舗投資による増収の効果が出た。最終減益の要因は、2016年2月期に計上された事業承継による繰延税金資産が計上されなかったため。
中国・四国地方の天満屋ストア<9846>は営業収益2.3%増で2016年2月期の減収から増収に転じたが、逆に当初見通しは増益だった営業利益は2ケタの増益から0.8%の減益に変わった。当期純利益は39.2%増で大幅最終増益が続いている。年間配当は5円で据え置き。既存大型店のテコ入れを図るためセブン&アイグループの雑貨店「ロフト」を誘致し集客、増収につながった。最終増益は子会社の吸収合併が寄与している。
西日本一帯に「イズミ」「ゆめマート」などを展開するイズミ<8273>は、営業収益5.0%増で、買収効果があった2016年2月期の15.4%増から増収幅が縮小したが、既存店の55周年セールに新規出店や増床の投資効果も出て増収。営業利益は11.8%増で増益幅が5.2%増から拡大して過去最高益だった。しかし当期純利益は熊本地震で子会社の店舗が被害を受け特別損失を計上したため増益から減益に変わり9.3%減だった。年間配当は2円増配して66円。
イズミと同じく広島が本拠のイオン系、マックスバリュ西日本<8287>は営業収益0.8%増、営業利益6.0%増、当期純利益30.6%増で、2ケタ増益だった2016年2月期から増収幅、増益幅とも縮まったが、それでも増収、大幅最終増益と好調。年間配当は3円増配して38円。新規出店、既存店の改装に投資して客数増、増収、コスト削減努力で増益という結果を出している。
九州地区のイオン系、マックスバリュ九州<3171>は売上高9.9%増、営業利益は27.5%増、当期純利益は135.3%増(2.35倍)。増収は2ケタにごく近く、2016年2月期は77.4%だった最終利益は、当初予想は減益だったが結果は増益幅を拡大。年間配当は10円増配して40円とした。熊本地震からの復旧が早く被災地のニーズを取り込めた。都市型店舗の積極出店、地元の生鮮品を拡充する販売政策も寄与している。
■人手不足、人件費高騰という新たな敵が出現
食品スーパー業界の2018年2月期の業績見通しは、首都圏のユナイテッドスーパーHDは営業収益3.7%増、営業利益3.4%増、当期純利益2.0%増を見込む。年間配当予想は2円増配の16円。共同調達やPB開発を進め、中期3カ年計画の最終年度2020年2月期に営業利益200億円突破が目標。ベルクは営業収益5.9%増、営業利益1.0%増、当期純利益5.0%増と増収増益が続く見込みで、年間予想配当は4円増配して64円。埼玉県内で「移動スーパー」に参入した。
東武ストアは売上高3.6%増、営業利益22.0%減、当期純利益75.8%増と増収、営業減益、最終大幅増益を見込む。年間予想配当は50円で、昨年9月の株式併合を考慮すると実質的に据え置き。ライフコーポレーションは営業収益4.1%増、営業利益0.5%減、当期純利益17.4%減で、連結決算でも個別決算でも増収減益の見通し。予想年間配当は30円で据え置き。オークワは新規出店は抑えるが営業収益1.7%増、営業利益32.5%増、当期純利益15.1%増と増収、2ケタ増益を見込む。予想年間配当は26円で据え置き。
地方の食品スーパーは、マックスバリュ北海道は営業収益3.9%増、営業利益1.0%増、当期純利益11.5%増の増収増益、最終2ケタ増益の見通し。予想年間配当は3円増配して20円。「オムニチャネル」を推進して中期3カ年計画の最終年度2020年2月期に売上高1950億円、営業利益90億円達成が目標。天満屋ストアは営業収益2.7%増、営業利益3.8%増、当期純利益49.6%増で今期も大幅最終増益の見通し。しかし予想年間配当は5円で据え置き。配当性向が年々低下する。
イズミは営業収益6.5%増、営業利益9.3%増。当期純利益は55.7%増の大幅増益で過去最高益更新を見込んでいる。予想年間配当は66円で据え置き。4月に広島県で新業態の大型施設、5月に島根県江津市で新店がオープンし、既存店の改装にも積極投資。ニトリHDの似鳥昭雄会長を社外取締役候補に選任するなど業務改革にも意欲的だ。マックスバリュ西日本は新店投資を加速して営業収益2.1%増、営業利益2.6%増、当期純利益8.2%減の増収、営業増益、最終減益を見込む。予想年間配当は3円減配して35円。人手不足対策として、パート・アルバイトへの年2回の賞与支給、勤務地域限定の正社員制度を導入した。マックスバリュ九州は売上高2.7%増、営業利益3.1%増、当期純利益10.5%減の増収、最終減益を見込む。予想年間配当は10円減配して30円。人手不足の中、やむを得ない退職を防ぐために配偶者の転勤先に異動できる制度を導入した。
小売業で一番元気な業態はどこか? 「製造小売」で稼ぐ一部の専門店チェーンを除けば、数字の上では食品スーパーである。2016年通年の既存店売上高の対前年比は、百貨店は-2.9%、GMSなど大手スーパーは-0.4%、コンビニは+0.5%だったのに対し、食品スーパーは+0.8%で最も良かった。
各社の決算数字もおおむね良好で、2014年4月の消費増税で個人消費が落ち込んだ後、生き残りをかけて業務改革、コスト削減、店舗リストラに努め、共同仕入れのような業務提携や、合併、買収、経営統合も含め真剣な経営努力を行ってきた成果が数字にあらわれている。セブン&アイやイオンのような大手流通グループは、その後を追っているような形だ。
しかし現状、完全失業率が3%を割り、有効求人倍率が1を割る都道府県が一つもないような雇用情勢が続き、GMS以上にパート・アルバイトの労働力に支えられている食品スーパーには「人手不足」「人件費高騰」という新たな敵が出現している。とりわけ人が足りない首都圏は早くも業績面にその影響があらわれ、時給や残業代や人材派遣の料金のような人件費コストがかさんで減益を余儀なくされるスーパーが出ている。それが今後、大都市圏から地方にもひろがっていく可能性もある。今期は人手不足対策の「働き方改革」が、食品スーパー各社にもひろがりそうだ。(編集担当:寺尾淳)