宅配業界が変わるか? ヤマト運輸の値上げと宅配ボックス設置推進

2017年3月18日 09:58

 運送会社の宅配サービスが揺れている。ネット通販や事務用品翌日配送などで荷物が急増しているからだ。宅配便最大手でシェア約47%のヤマト運輸が、宅配便の基本料金を27年ぶりに引き上げるとともに、再配達や時間指定配達の有料化などの方針を固めた。ヤマトの取り扱い荷物量は、前年比108%の18億7000万個で、過去最高だという。人手不足に悩んでいるのはヤマト運輸だけではない。トラック運送会社の99%を占める従業員300人以下の中小企業も同じ悩みを抱える。ヤマト運輸の決断が、全般的な配送料の底上げにつながれば、運転手の待遇を改善しやすくなり、採用にもプラスに働く可能性がある。

 運送業界には仕事がキツイという印象があり、若い人が来ない。50代前半でも若手だ」と嘆く。ヤマト運輸の値上げがきっかけとなって業界全体の労働環境が改善すれば、若い人が運送業界に来てくれるようになる可能性が高まる。

 もっともネット通販など一部の業界を除くと、個人消費停滞などで荷動きは盛り上がりを欠く。競合が多い近距離や小型車の運賃は「下限に張り付き、なかなか上がらない」といった指摘もある。東京都貨物運送協同組合(東京・文京)によれば、「中小の運送会社は立場が弱く、値上げに踏み切れない企業もある」と語る。ヤマトの動きを伝えるニュースは、「最大手のヤマト運輸でも苦しい状況にあることが伝わった」、「配送はただではない」という認識を荷主企業だけでなく、消費者にも定着させることが問題解決の糸口となりそうだ。

 急増する宅配便に対応し、住宅各社が戸建てにも宅配ボックスを標準装備する。大和ハウス工業などが宅配ボックス付きの戸建て住宅の販売を開始。普及が進むマンションでも、大京が通販の商品をいつでも受け取れる、宅配ボックスを兼ねた大型のポストを約8割の新築物件で用意する。昼間不在で荷物を受け取れない共働き・単身世帯を中心に、大型ポストは住宅販売の必須アイテムとなりつつある。

 大和ハウス工業は先般、日本郵便、ポスト大手のナスタ(東京・中央)と共同開発した宅配ボックス付きの戸建て住宅を埼玉県越谷市で売り始めたと発表した。宅配物をボックスに入れた配送業者は、内蔵されたハンコで受領印をとる。暗証番号を入力した上で扉を閉める。ボックスには集荷機能を持たせたほか、6月以降は事前に申し込めば書留郵便の受け取りも可能になる。設置価格は25万~30万円とメールボックスのみの場合とほぼ同じ。東京都西東京市などで計220戸分を売り出し、これから首都圏で販売する建売住宅に同ボックスを標準設置する。

 従来から分譲マンションには標準で宅配ボックスが設置されるケースが多いが、戸建て住宅での普及率は1%未満とみられる。が、普及が進むマンションでも1棟あたりの宅配ボックス数の不足が指摘されている。100戸を超える大型マンションでは、一般的に総戸数の1~2割しか設置されておらず、午前中には全ロッカーが埋まってしまうケースもあるという。

 マンション大手の大京は、来年3月をメドに東京都千代田区で全戸分の宅配ボックス付きマンションを供給する。約50世帯分のメールボックスの下に宅配ボックスを併設するという。宅配ボックス大手のフルタイムシステム(東京・千代田)と共同開発し、大型の宅配ボックスは別途用意する。今後は宅配ボックスの未設置マンションに対しても設置の提案を行なうという。

 国土交通省によると、2015年度の宅配便の取り扱い個数は約37億個。10年で27%増えた。このうち2割が再配達に回り、年9万人分の労働力が費やされているとされる。これが宅配業者の人手不足や交通渋滞を引き起こす一因になっている。(編集担当:吉田恒)

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