食品から受ける影響の個人差解明、遺伝子と食習慣の解析プロジェクト
2017年3月12日 18:38
ゲノム解析技術の急速な進歩により、2003年には人間の全遺伝子が解読され、16年には日本人の標準的な遺伝子配列が明らかにされた。これをきっかけに、遺伝的素因による疾患や体質と疫学研究、基礎研究、臨床研究による膨大なデータを結びつける研究が加速し、日本人固有の体質解明が進んでいる。たとえば、生活習慣病の1つで、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞などを発症する脂質異常症が近年増加傾向にあるが、日本人の食生活の欧米化が関連していることがわかってきている。
日本人の食生活は食事の摂取カロリー自体はほとんど変化していないにも関わらず、脂質異常症の患者数が増加し、今では国民病ともいえるほどの病気となっているのは、メニューの多様化により動物性脂質・糖分などの摂取量が増加しることによるものとされる。このように、同じ栄養素を摂取していても代謝や酵素の働き方は遺伝子によって異なる。ジーンクエストらは、個人の体質ごとの食品の影響を解明すべく食品機能と遺伝子多型の関連を調べる研究を開始する。健康維持を目的として食生活の改善が取り立たされる機会が多いが、遺伝的特性により効果のある食品とそうでない食品がある。個々人の健康に対する食品と遺伝子多型の関連解析はこれまであまり行われてこなかった。
1つの塩基だけが別の塩基に置き換わっているSNP(一塩基多型)は、体質の違いや特定の病気へのかかりやすさを規定している。今回の調査では、遺伝形質に関わる約30万のSNPと食習慣の相関を大規模解析して食品が健康に及ぼす影響の個人差と遺伝子の関係を調べる。食品機能と遺伝的特性の相互作用を詳細に解析することで、個々人の体質ごとに効果的な食品摂取方法の解明に期待されている。
骨密度を高めるために乳製品を摂取することや、ダイエットのために炭水化物を控えることは遺伝的特性によっては逆効果に働くことがわかってきており、同様に、これまで信じられてきた健康情報についても遺伝因子の影響を強く受けるものがあると考えられている。同研究が進むにつれて、ネット上や教育現場などで広がっている健康情報に関しても、遺伝的特性ごとの影響が明らかになると考えられ、適切な食生活をおくるうえでの新たな指針の形成が期待される。(編集担当:久保田雄城)