『ラ・ラ・ランド』観賞前にチェック!『セッション』あらすじ&レビュー
2017年3月12日 10:23
■『ラ・ラ・ランド』と同じくアカデミー賞で注目を集めた『セッション』
2017年アカデミー賞において6部門を受賞した『ラ・ラ・ランド』。その監督であるデイミアン・チャゼルは、前作『セッション』においてもアカデミー賞の助演男優賞と録音賞、編集賞を獲得している。監督が生み出した映像的魅力はもちろん、狂気じみた師弟関係から生まれる音楽には幾多の人が惹きつけられた。
【ラ・ラ・ランドは】『ラ・ラ・ランド』アカデミー賞で監督賞ほか6冠、作品賞は逃す
■『セッション』が魅せる狂気的な師弟関係
主人公のアンドリュー・ニーマン(マイルズ・テラー)は、偉大なドラマーになることに憧れ、アメリカでも有名な音楽学校に入学する。そこで出会ったのが、学内でも最高の指揮者として知られるテレンス・フレッチャー(J・K・シモンズ)である。
ニーマンは晴れてフレッチャーと共にスタジオで演奏することになる。だが、初練習の際にフレッチャーに罵倒されて退場してしまう。フレッチャーは異常なまでに完璧を求める指揮者で、ニーマン以外のメンバーにも罵倒だけでなく、殴ったりイスを投げたりなどの暴力をふるう指揮者だった。
フレッチャーが生徒にきつくあたる理由は、ジャズ界に新しい才能ある人間を生み出したいからだ。フレッチャーは過去の偉人が克己心により、才能を開花させたエピソードを語った。フレッチャーは純粋に、ジャズ界の新しいアーティストを欲していたのだ。
フレッチャーの行動は異常だったが、それでも彼を見返そうと奮起するニーマン。スティックが血でにじむまで練習を行い、フレッチャーの激昂に言い返すほどのメンタルを持つに至る。
しかし、フレッチャーにも押し負けないメンタルがアダとなり、大事なコンペティションにて失態を犯してしまう。その事件が原因でニーマンは学校を退学することになる。さらに、フレッチャーの指導にも問題があるとニーマンは匿名で告発したため、彼は辞職することになった。
■ラスト9分19秒、目を離す隙がないドラムシーン
異常なまでに互いを憎み合うニーマンとフレッチャー。ラストにはフレッチャーが指揮する公演に、ニーマンをドラマーとして参加することを依頼するシーンがある。
しかし、これはフレッチャーのニーマンに対する復讐だった。フレッチャーはニーマンが辞職する理由を作ったことを知っており、嘘の演奏曲を教えて公演を台無しにする計画を立てていた。
公演中にフレッチャーの復讐心を知ったニーマンは、フレッチャーの指揮を無視して演奏をはじめる。その演奏技術には鬼気としたものがあり、他の演奏者はニーマンに合さざるを得なかった。
舞台の支配権は完全にニーマンに移り、フレッチャーもその才能に惹かれる。最後には公演中にも関わらず、フレッチャーはニーマンに目一杯指導をはじめるのだ。
■本気で憎み、負かしたいと思うからこそ生まれた音楽
ニーマンとフレッチャーが音楽を追い求める姿勢は本物だった。そして、お互いに本気でぶつかり合うことで「負かしたい」という純粋な悪意が生まれた。
そのぶつかり合いが無ければ、ラストのような演奏は生まれなかった。また、フレッチャーもニーマンに「負けた」と本気で思えたからこそ、ラストシーンで彼に指導を始めたのだ。
『セッション』においてフレッチャーのような指導が正しいとは言えないだろう。だが、ラスト9分19秒のドラムシーンを見て、フレッチャーが絶対に悪だと言える人間も同じくいないと思いたい。(記事:藤田竜一・記事一覧を見る)