慶大ら、意欲障害に関わる脳の部位を特定
2017年2月16日 09:03
認知症や脳血管障害など脳の障害を伴う疾患では、周辺症状としての意欲障害が問題となっている。認知症では初期段階から意欲障害がみられ、脳血管型認知症の70%、アルツハイマー型認知症の50%以上の人に意欲低下があらわれる。意欲障害によりリハビリテーションへの動機づけの困難、デイサービス・通院などの外出意欲の低下はもちろん、それまでおくっていた日常生活に対する意欲の低下も見られ、QOL(quality of life)の低下を招く要因になる。
同様の症状としてうつ病があり、混同されることも多いが、うつ病に関しては抗うつ薬での治療の選択肢があるのに対し、認知症などからの意欲障害では症状の改善がみられないケースもある。意欲障害への対処方法としては、支援者が無理のない範囲でこれまで行ってきた趣味や生活習慣を促すことだが、根本的な原因がわかっていなかったため、意欲障害そのものに対する治療薬はない状態だ。こうしたなか、慶應義塾大学らの研究グループは、マウスを用いた実験で意欲障害の原因となる脳の部位を特定したと発表した。
これまでの研究から「線条体」という大脳基底核の特定部位の損傷により高い頻度で意欲障害を起こすことがわかっており、同研究グループでは、線条体を構成する細胞集団「ドパミン受容体2型陽性中型有棘ニューロン(D2-MSN)」に着目。任意のタイミングでD2-MSNを除去できる遺伝子改変マウスを使って実験を行った。マウスの意欲レベルを調べた後、D2-MSNだけに神経毒を発現させて徐々に細胞死させた結果、腹外側線条体の17%の細胞死によって意欲障害が起こることが分かった。これ以外にも光によって神経細胞にたんぱく質を発現し、制御・破壊する方法(オプトジェネティクス)によっても同様の結果が得られ、腹外側線条体のD2-MSNが意欲行動に必須であることが結論づけられた。
同研究結果を応用することにより、意欲障害を伴う患者の診断手法の確立や、D2-MSNが破壊される現象に対しての原因究明および治療薬開発に役立てられることが期待される。(編集担当:久保田雄城)