認知行動療法が深刻なうつにも効果あり、京大が解析
2017年2月6日 17:03
認知行動療法は、ある出来事に対する身体の反応、どのように考えるかという認知、出来事に対して持つ感情、実際に起こる行動という人の反応の 4 つの側面の中で、本人が意識してある程度コントロールできる認知と行動に働きかける治療法である。京都大学大学院医学研究科の古川壽亮教授、田中司朗准教授、アムステルダム大学のErica S.Weitz 博士課程学生などの研究グループは、比較的重いうつ病の治療を対象に行われたランダム化比較試験の中で、認知行動療法とプラセボ薬との治療効果比較データがある5つの研究をもとに、認知行動療法がどの程度の効果を持つのか解析を行った。
治療前のうつ病の重症度が治療法の効果へ与える影響を対象にした研究は、これまで抗うつ薬の効果検証を目的として行われてきた。そのため、認知行動療法とうつ病の重症度の関係に主眼を置いた研究は行われてこなかった。今回の研究では、過去に行われた試験データを対象にメタ解析を行い、認知行動療法が有効成分を含まないプラセボ薬(偽薬)に比べどの程度の効果があるのかを調査した。
まず、過去に行われた研究の中から今回の検証に使うことができる条件をそろえたものの選別を行った。プラセボ薬と認知行動療法の治療効果のデータがどちらも含まれていること、ランダム化比較試験であることなど4つの条件に合致するものの中から、子どもを対象にしたものやうつ病の診断基準が不明確であるものなど条件が揃わない研究を除外し、最終的に5つの研究とそのデータを対象に分析した。
その結果、元々のうつ病の重症度は認知行動療法とプラセボ薬によるうつ病の改善度の差にほぼ影響を与えないことがわかった。うつ病の重症度に関わらず認知行動療法が効果をもたらす可能性が変わらないことを示唆する結果だという。
もともとの研究が今回検討したかった認知行動療法の治療効果を目的としてデザインされていないことや、対象者が併せて持っている障害に関するデータが無い点、取り上げた研究によって重症度の評価尺度が異なるといった限界はあるものの、認知行動療法がこれまで考えられていたよりも幅広いうつ病の治療に用いることができる可能性を示した成果である。治療効果の指標である治療必要数 (NumberNeeded to Treat)に換算すると、重症のうつ病に対して認知行動療法は 12 という値だった。一般的に用いられる抗うつ薬は7~9という値であり、本人の希望によってはどちらの治療法も合理的な選択肢になりうると考えられるとしている。(編集担当:慶尾六郎)