現場作業を見下すマネージャーが中小企業に転職してからのこと
2017年1月30日 17:04
数年前のことですが、以前に何度かお会いしたことがある、まずまず大きな会社のマネージャーだった人から転職したという案内をもらいました。転職先はそれほど大きな会社ではありませんでしたが、執行役員の肩書がついていましたので、それなりに望まれての転職なのでしょう。
私は何度かビジネス上のつながりがあっただけなので、くわしい人物像まではわかりませんが、どちらかと言えばイケイケな感じがする、悪く言うとそれが尊大な態度に見えてしまうようなタイプの人でした。私の印象では、仕事のしかたが大ざっぱに見える人で、実際に期限を守らない、依頼事項を忘れる、ケアレスミスなど、少々雑なところがありました。
私がその人の発言で特に気になっていたのは、現場作業や事務仕事を「誰でもできる仕事」などといってかなり軽視していたことです。
「上位の職制の者ほど、自分しかできないことに時間を割かなければならない」と言われることからすればわからなくはないですが、本来は自分でやらなければならないようなことであっても、現場作業や事務仕事のたぐいは何でもかんでも部下に押し付けるようなところがありました。
たぶん、そういうことがあまり得意でなかったのでしょうが、軽視して見下すような態度は好ましいとは言えません。押しの強さが上司からは頼もしく見えるのでしょうが、部下たちからの評判はあまり良いとはいえないようでした。
案内をもらってから何か月かが経ったある日、そのマネージャーが転職前に在籍していた会社に、たまたま訪問する機会がありました。新たな担当者と話しているうちに何となくそのマネージャーの話になり、その担当者が聞いた風の噂によると、転職先の会社は早々に辞めることになってしまったらしいということです。それも退職勧奨のような形で半ば追い出されてしまったようだということです。
どうも「自分のことを自分でやらない」という評価だったようで、それが無責任、人任せ、何もしないといった見られ方になり、結局辞めざるを得なくなってしまったようです。
私はこの話を聞いて、「ああやっぱり・・・」という思いを強く感じました。
特に大きな組織の出身者が中小企業にいってまず思うことは、「こんなことまで自分でやらなければならないのか・・・」ということだそうです。
分業が進んでいる大企業では、「本人の知らないうちに誰かがやってくれていること」が思いのほかたくさんあり、社員を手厚くフォローできる体制が整っていますが、中小企業ではそうはいきません。会社によって差はありますが、自分の身の回りのことは自分でやるのが基本です。
そんな手厚い大企業にいることでようやく成り立っていた人が中小企業に転職すれば、見下していた現場作業や事務仕事を、「やらなくても当然」の文化から「やって当然」の文化に変わる訳ですから、そのカルチャーショックは相当だっただろうと思われます。逆に自分が見下されるようになってしまったかもしれません。
最近の求人要件として、年令を問わずに「自分で手を動かせる人」「実務がこなせる人」という項目が挙げられることが多くなりました。ただ「管理ができます」ではダメで、営業であれば実際の営業活動、経理であれば台帳入力などの経理事務など、現場のプレイングをこなした上でのプラスアルファが要求されるようになっています。
現場作業を軽視する姿勢では、通用しない職場がどんどん増えています。「たかが事務作業」「誰でもできる仕事」などと言って避けていることで困るのは、実は自分自身ということです。
目の前の実務を誠実にきちんとこなすことは、自分のためにも必要なことなのだと思います。
※この記事は「会社と社員を円満につなげる人事の話」からの転載となります。元記事はこちら。