植物工場は儲からない?電子部品メーカーが仕掛ける新しい植物工場
2017年1月28日 21:28
日本の農業は今、大きな岐路に立たされている。日本の農業就業人口は2014年時点で約227万人。しかも、その半数以上が65歳以上の年金受給者だ。超高齢化社会に突入した我が国にとって、それは農業に限った問題ではないとはいえ、このままでは日本の農業が崩壊しかねない。実際、耕作放棄地も拡大し続けている。
そんな日本の農業の救世主と期待されているのが「植物工場」だ。植物工場は、閉鎖された空間の中に植物の栽培に最適な条件をつくり上げ、成長力を高めることで、露地栽培よりも短期間かつ安定的に、安全で質の整った農作物を生産、供給するシステムである。
10年前、政府は「3年で植物工場数を3倍、コストを3割削減」という政策目標を掲げた。その後、政策支援の効果もあって目標は達成したものの、現実は決して、順風満帆というわけではない。2015年度末に190カ所を超えた植物工場の半数以上の事業者が赤字経営にあえいでいるのである。15年には、宮城県名取市の「さんいちファーム」、大学発ベンチャー「みらい」という、第3次植物工場ブームをけん引してきた事業者が相次いで倒産。業界に大きな衝撃が走った。これにより「植物工場は儲からない」というイメージもついてしまったのではないだろうか。
しかし、国土面積が日本の50分の1しかなく、耕地面積が日本の4分の1、農業人口も日本の7分の1以下でありながら、農業輸出は日本の約30倍、世界最高の250億ドルの黒字を叩きだしているオランダのような国もある。オランダの気候は厳しく、低温で日照時間も恵まれない。さらには、日本よりも人件費が高い。それでも農業で大きな利益を上げているのは、まさにスマートアグリの賜物だ。そして、その成功の理由の一つは、自給率を捨てて、付加価値の高いものづくりに力を注いでいる点にある。ただ単にコストを抑えて量をつくればいいというわけではないようだ。
例えば、日本では電子部品メーカーのロームが、同社のセンサー技術などを用いて、人工光型植物工場としては珍しい「イチゴ栽培」工場のシステムを開発し、3年間にわたって検証を進めている。イチゴは季節性があるうえに栽培管理が難しいため、植物工場向きではないとされてきたが、同社では一定基準値の空気清浄度を確保した空間のクリーンルームを使用し、最先端の農業システムを導入することでこれを可能にしたという。これにより、通常は5月~6月頃にしか出荷できない「一季成り」品種の栽培にも成功。一年を通して、味の良いイチゴを提供するシステムを完成させている。
さらに興味深いのは、同社ではこのシステムを自社で自ら運営するのではなく、事業化を希望する事業者や農家に提供しようとしていることだ。公募で希望者を募り、事業計画や規模など応募内容について審査したうえで採択し、ライセンス契約を結ぶという。これが成功すれば、日本の植物工場の新しいモデルケースになるのではないだろうか。
また、昭和電工と山口大学農学部の執行正義教授は共同で高速栽培法「SHIGYO(シギョウ)法」を開発して話題になっている。この方法は、昭和電工の有する、光合成に最適な波長「660ナノメートル」の赤色LED技術を軸に、植物に照射する光を制御することでコストダウンと高付加価値化を実現するもので、電気代を約半分に抑えながら成長速度を大幅に加速させる。
オランダの農業も、かつては外国からの安価な野菜が席捲し、壊滅的な状況にあったという。そこから、スマートアグリで奇跡的な復活と発展を遂げた。オランダにできたことが、数々の環境に恵まれた日本にできないはずはない。知恵と技術を駆使した植物工場によって、日本の農業に明るい未来が訪れることを期待したい。(編集担当:藤原伊織)