キメラの体内で培養した膵臓使いマウスの糖尿病治療に成功、東大など
2017年1月27日 16:54
東京大学医科学研究所の中内啓光教授らの研究チームは、膵臓を欠いたラットの体内でマウスの多能性幹細胞由来の膵臓を作製し、その細胞を糖尿病のラットに移植、糖尿病を治療することに成功した。
古代ギリシャの神話に、ライオンの頭に山羊の胴体、毒蛇の尻尾を持った怪物が登場する。その名を、キマイラないしキメラという。おどろおどろしい話であるが、今回の研究はそのような怪物とは関係がない。
現代の医学・生物学において「キメラ」というのは、単一の個体内に、異なる遺伝情報を持った細胞が混じった状態のことである。つまり、マウスの遺伝子を持った膵臓を体内に持つラットは、外観はただのラットと変わるまいが、生物学的に言うとキメラだということになる。
さて、研究の内容についてもう少し詳しく見てみよう。ラットの体内で作られた膵臓は、遺伝情報はマウスのそれであるわけだが、大きさはラットの膵臓の大きさであった。その一部を糖尿病のマウスに移植したところ、5日ほどでちゃんと膵臓として働くようになり、一年以上に渡って免疫抑制剤なしで(膵臓の本来の機能通り)正常血糖値を維持したという。
この研究の詳細は、25日、科学雑誌Natureのオンライン版に掲載された。
なお、この研究の最終的な展望・目標は、もちろん、ヒトの臓器移植への臨床応用にある。ヒトの移植用内臓を、たとえばブタやヒツジなどの体内で培養する研究は、主にアメリカなどで既に進められている。
その第一人者は、スタンフォード大学教授でもある、中内啓光氏だ(氏はスタンフォードと東大の教授を兼任している)。
御想像に難くないかと思うのだが、ヒトの生体組織を一部とはいえヒト以外の生物の中で培養するというアイデアには、倫理的な観点からの批判がある。だが、中内教授は過去、インタビューに答えてこう語っている。
「この手法が非倫理的であるというのなら、ヒトの移植用内臓は、ヒトの生体内で培養するよりほかないでしょう。しかしその方が、ずっと倫理的問題は大きいのです」。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る)