【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(2):◆中欧接近は是か非か◆
2017年1月22日 09:50
*09:50JST 【休日に読む】一尾仁司の虎視眈々(2):◆中欧接近は是か非か◆
〇ダボス会議、中欧接近度測る〇
中国はいつ頃から工作活動を行っていたのであろうか。例年に比べ、10日以上前倒しして開催されるダボス会議は、初日に初参加する習近平・中国国家主席の基調講演を予定している。「28日に春節を迎える中国に主催者側が前倒し日程で配慮」(仏フィガロ紙)と伝えられる。15年9月の抗日戦パレード以来、晴れの舞台の少ない習主席に、「グローバリゼーションの新旗手」との印象付けを行いたい意向だ。
新華社は「欧米先進国が形勢を一変させ、発展途上国と協力することが道義的義務であり、適切な選択だ」と居丈高だが、トランプ外交の標的になることに警戒感が滲む。米大統領選以前から準備を行っていたとすれば、偶然、活動の場が格上げされたことになり、トランプ後に工作活動を展開したとすれば、米中摩擦に対抗して欧州接近の姿勢が強く出ていることになる。
スイスに入った習主席は「中国経済は引き続き安定的に推移し、着実な成長を維持する。新常態(ニューノーマル)に差し掛かっているが、スイス企業などと協力して経済の質を高めるとともに、一層効率的かつ衡平で持続的な経済を実現することが可能」と述べた。ここで言うスイス企業は、中国化工集団(ケムチャイナ)が430億ドルで買収するスイス農薬大手シンジェンタなどを指すと見られる。当局がまもなく承認と伝えられており、承認手続きの動向も中欧接近の材料と看做されよう。
ただ、欧州側は抜け目ない。19日にはメイ英首相の演説を用意し、4日間のダボス会議の後半は欧州問題に移行する印象だ。中国は一帯一路構想など、欧州との連携強化を狙い、実際、技術力向上などはドイツを中心に依存度を高めてきたが、昨年の英政変で中英関係は冷え込んだ。トランプ氏はドイツを難民問題などで非難、英国のEU離脱を褒め、欧州の亀裂を広げる姿勢にある。ドイツが中国の熱い視線を受け入れるかどうかも焦点となろう。中長期的には、中欧接近が図れたとしても、今年の欧州選挙次第で、英国の二の舞いになるリスクがあるが、中国はそこまで頭が回らない状況と思われる。
AIIB(アジアインフラ投資銀行)創立一周年を迎え、融資はパキスタン向けなど9件、総額17.3億ドルに止まった。計画の12億ドルは上回ったが、700人計画の本部職員数は90人にとどまり、実務は進まず、インパクトを与えているとは、とても言えない。また、中国最高人民法院(最高裁)の院長は「憲政民主や三権分立、司法の独立などと言う西側の誤った思想を断固阻止する」と16日までの会合で述べ、「敵対勢力による革命のたくらみや政権転覆の扇動、スパイ活動は厳しく処罰」する方針を示した。人権問題に米国以上に敏感な欧州との溝は深く、欧州側が失望する材料には事欠かない。トランプ氏の「一つの中国」巡る発言に、過剰とも思える対抗姿勢をむき出しにしており、欧州がこの問題にどういった姿勢を示すか注目される。仮に中欧関係良好が謳われれば、中国経済の「小康状態」は持続する公算がある。
なお、延べ30億人の大移動と言われる春節期間が既に始まっている。韓国が「THADD報復」で、台湾が「一つの中国」問題で観光客減と言われる中、「爆買い」ブーム程は至らないにしても訪日客増などが見込まれる。苦戦の続く国内消費・サービス業界には一息つく材料になる可能性がある。
以上
出所:一尾仁司のデイリーストラテジーマガジン「虎視眈々」(17/1/17号)《WA》