東大、神経ストレスが胃がんの進行を加速させるメカニズムを解明

2017年1月7日 09:47

 人間の神経細胞は脳だけでなく全身に分布しており、中でも胃腸には1億個以上のさまざまな神経細胞が存在し、胃腸の動きや消化ホルモンの分泌を調節している。以前から神経ストレスががんやさまざまな病気の原因になる可能性は指摘されていたが、その理由や重要性についてはよく分かっていなかった。

 今回、東京大学医学部附属病院消化器内科の早河翼助教、小池和彦教授らは、米国コロンビア大学などと共同で、胃がんの発育と神経ストレスの密接な関連とそのメカニズムを明らかにした。早河助教らはマウスの胃がん組織を詳しく観察し、胃がんが進行する過程で、がん細胞が「神経成長因子」と呼ばれるホルモンを産生し、これに反応した神経細胞ががん組織に集まり、そこからの強いストレス刺激を受けることで、胃がんの成長が加速していくことを世界で初めて明らかにした。

 研究グループはまず、消化管内での神経シグナルの中核をなすアセチルコリンという神経伝達物質がどこから産生されるのかを、アセチルコリン産生細胞が緑色に光る特殊なマウスを用いて観察した。すると、胃の幹細胞を取り巻くようにアセチルコリン産生神経細胞が存在するとともに、粘膜細胞の中の刷子細胞(Tuft cell)と呼ばれる細胞も、アセチルコリンを産生していることがわかった。これらの神経細胞とTuft cellは、マウスの胃発がん過程において徐々に増殖し、組織内にアセチルコリンを活発に産生していくことがわかった。

 そして、がんの中の神経細胞の量が徐々に増えていくことに着目し、増加したアセチルコリンががん細胞に働きかけて、神経を成長させる物質を放出させるのではないかという仮説をたてた。すると実際に、胃がん細胞では神経成長因子(NGF)というホルモンがアセチルコリン刺激によって高発現することがわかった。アセチルコリンとNGFを介した神経とがんの相互作用が存在し、がんの増殖を加速させている可能性が考えられた。そこで、NGFを胃内に過剰発現するマウスを新たに作り出した。すると、このマウスの胃内には異常な神経が発育し、結果として自然に胃がんを生じることがわかった。

 アセチルコリンの受容体を欠損したマウスや、NGF受容体阻害剤を投与したマウス、アセチルコリンを産生するTuft cellを除去したマウスでは、こうした神経シグナルによる胃がん増殖効果が見られなくなることから、アセチルコリンを介した神経ストレスが胃がんの発生に直接関与することを明らかにした。また、このストレスシグナルによって影響を受ける分子を詳細に観察したところ、YAP経路と呼ばれる転写調節因子がアセチルコリンによって直接活性化されることがわかった。YAP経路の活性化及びNGFの高発現はヒトの胃がんの半数以上で認められることから、神経ストレスを介した胃がん増殖作用は多くの症例で重要な役割を果たしているものと考えられるとしている。

 この成果により、がん細胞の増殖を直接抑える従来の抗がん剤に加えて、神経細胞との相互作用を抑える薬剤を使うことで、胃がん治療の効果を高めることができると考えられる。このような薬剤はすでにさまざまな疾患に使用されており、胃がんに対しても早期の臨床応用が期待されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)

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