「抑うつ気分」「死にたい気持ち」などの重症度示す血中代謝物が発見
2016年12月28日 20:48
うつ病患者数は近年増加傾向にあるといわれている。うつ病含む日本の気分障害の患者数は1996年で43.3万人だったものが、2002年(71.1万人)頃から急激な増加が目立ち、05年には92.4万人、08年には104.1万人に及んでいる。ただし、うつ病は従来、臨床心理士や精神科医による主観を通した面接などにより評価されるために客観的な診断が難しいことから、正確な患者数の把握が難しいことが指摘されている。うつ病は、抑うつ気分、意欲低下、罪悪感、自殺念慮(死にたい気持ち)などの症状をきたす精神疾患で、介入のためには重症度評価は不可欠なことからも客観的な評価手法の開発が求められていた。こうした背景から、九州大学大学院医学研究院を中心とする共同研究グループは、うつ病などの患者からの微量な血液成分の解析から、うつ病の重症度を予測するアルゴリズムを開発した。
今回の研究では、うつ病重症度評価を目的として心理査定で活用されている「ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)」及び、アンケートによる抑うつ重症度評価尺度「PHQ-9」の2つの値と、患者の血中代謝物質との相関を調べた。血中代謝物質の計測は、微量の血液成分から百種類以上の血中代謝物を同時計測できる「メタボローム解析」とよばれる手法により行った。同研究により、抑うつ重症度に関連する血中代謝物を20種類(3-ヒドロキシ酪酸、ベタインなど)同定することに成功。抑うつ気分、罪悪感、自殺念慮などそれぞれの症状毎に関連する代謝物が異なることがわかった。例えば、自殺念慮に関しては、脳内免疫細胞ミクログリアとの関連が示唆されるキヌレニン経路の代謝物が強く関連していた。さらには機械学習を活用して、数種類の代謝物情報から自殺念慮の有無や強さを予測するアルゴリズムの開発に成功したとのこと。
うつ病治療には早期発見・早期介入が重要とされることから、同研究成果を発展させた、採血によるうつ病の客観的評価法開発が国民全体のメンタルヘルスへ貢献することが期待される。また、うつ病の病態解明および特定代謝物に働きかける食品・薬品開発の促進が期待されている。(編集担当:久保田雄城)