東北大・井上前総長に対する研究不正疑惑の調査報告書が発表される
2016年12月20日 09:14
あるAnonymous Coward 曰く、 東北大学が16日、研究不正疑義の告発に関する調査報告書を発表した。調査結果は「研究不正は無かった」と結論付けている。
この研究不正疑義は東北大学の元総長である井上明久氏に対するもので、1つは1997年および1999年に発表された論文中でとある合金のものとして提示された試料写真が、1996年に発表された別の論文で提示された別の合金の試料写真と一致しているというもの。もう1つは2001年から2002年にかけて発表された論文内で、図から読み取れる結果と論文の本文中で言及されている値が異なるという指摘と、原点が示されていないグラフを使って議論が進められているという指摘。
調査報告書では写真の切り貼りについては認めており、「説明もなくこのような切り貼りを行うことは研究分野によっては研究不正と判断されることがある」と指摘されてるが、これは研究分野によらず、研究不正であり改ざん盗用である。
また、井上氏に対しては論文を二重投稿しているとの指摘もあり、これについては「二重投稿と表せざるを得ないものが含まれている」との判断が下されてた(2012年の東北大の調査検討委員会報告書PDF、ダイアモンド・オンライン、Nature、ちきゅう座)。しかし、東北大学の「研究活動における不正行為への対応ガイドラインでは論文の二重投稿が研究不正の対象とされていない。東北大学の研究不正行為への真摯な対応が望まれる。
調査報告書(PDF)には告発者による指摘とそれに対する検証結果が示されているが、「提示された試料写真が、別の論文のものと一致している」という指摘については事実としつつ、故意ではなく過失によるものであり、研究結果自体についてはねつ造ではないという結論になっている。
ただ、当時の生データがすべて逸失しているため現在においてはその検証ができないという状況であり、井上氏らによる研究結果が正しいことが完全に証明できたわけではないようだ。
また、「図から読み取れる結果と論文の本文中で言及されている値が異なるという指摘と、原点が示されていないグラフを使って議論が進められているという指摘」についてはついては別の報告書(PDF)で調査結果がまとめられている。こちらについても生データは失われておりそこからの検証はできないという状況だという。
井上氏側は当時は手作業で投稿用のデータを作成しており、紙チャートの縮小コピーなどの際にデータの読み違いが発生したとし、グラフの方が間違っていると主張している。グラフの原点が示されていないことについては材料強度分野では一般的に行われているものとし、「論文の点検に関する研究指導とデータ管理の杜撰さについて、研究指導者の責任が問われるものである」としつつ、意図的な改ざんではないと結論付けてしている。
また、どちらの報告書でも問題の論文に対するErrataを学術誌に投稿することは不可欠であり、不可能な場合は自費出版してでも「より妥当な姿を構成に残すのが研究者としての責務である」とされている。
スラドのコメントを読む | ニュース | 教育
関連ストーリー: 子宮頸がんワクチン薬害捏造疑惑の池田修一・信州大学副学長、捏造を指摘したWedgeを訴える 2016年08月19日 岡山大学で論文不正告発を行った教授2名が解雇される、裁判沙汰に 2016年01月13日 著書の偽装や査読者偽装という大胆な論文不正行為 2016年01月05日 大阪大学教授による1億5000万円の不正経理が発覚 2015年12月28日