キューバ政府、チェコへの債務を「ラム酒で払う」と提案
2016年12月19日 12:11
キューバ政府は、中欧のEU加盟国チェコに対し、冷戦時代に借りた外貨約2億7,000万ドル(約318億円)を、キャッシュではなく自国の特産品「ラム酒」で支払いたいと提案した。17日までにチェコ財務省が明らかにし、CNNなどが報じた。
冷戦がいつ終わったのかについては諸説あるが、最も遅い1991年(ソ連が消滅した年)説を採っても、既に25年が経過している。さらに、チェコのキューバからのスピリッツ輸入総額は2014年で約330万ドルとされているので、仮にチェコがキューバから輸入するすべてのスピリッツを債務返済に充当した場合(利息、物価変動等は考慮しない)でも、完済に約80年かかる。
そもそも借金を物納返済するなど、いったいいつの時代の話かと呆れられるかもしれないが、実は、国家間の物々交換は、20世紀でもそう珍しいものではなかった。特に、キューバのような社会主義国(なお、チェコも旧共産圏である)では貿易の一形態としてよく行われていたらしい。一つには、社会主義国では生産物は国家の所有に帰するからであろう。キューバのラム製造所は、フィデル・カストロが革命を起こして以来、全てが国有だ。
さらに凄い話として、第一次世界大戦後の国家賠償がある。ドイツが天文学的な賠償金を請求されたという話は有名だが、実は、ドイツの賠償支払いの一部は物納をもってすることが定められていたのだ。長大なリストなのでほんの一端を紹介するにとどめるが、フランスに対し山羊を1万頭と石炭700万トンずつを10年間、ベルギーに対し乳牛を5万頭と石炭800万トンずつを10年間、といったような具合である。
これが第二次世界大戦後の賠償になるとさすがに現金払いがほとんどになるのだが、それでも例外として、「賠償艦」の存在がある。艦船はいかに資金が豊富で工業力の優れた国家であってもそう易々と作れるものではないから、金銭には替えられない価値があるのだ。中でも有名な例が、中国に引き渡された駆逐艦「雪風」と、ソ連に引き渡された駆逐艦「響」であろう。
とはいうものの、チェコはさすがにこのキューバからの提案に対し難色を示している。だがその内容は、「一部だけでもキャッシュで返済を」というものだそうだ。仮に半分が外貨で返済されたとして、残りは40年分のラム酒でいいということなのだろうか。
これがチェコ人の酒好き(チェコは国民一人当たりのビール消費量世界第1位)故のことなのか、それとも旧東側諸国同士の誼であるのかは判然としないが、いずれにせよ心温まる話ではある。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る)