父親の加齢が子孫の行動に影響を及ぼす、東北大と理研が解明
2016年11月20日 23:16
近年、自閉症スペクトラム障害や注意欠陥・多動性障害等の発達障害が増加していることが報告されており、早期の病態基盤の解明と治療法の確立が求められている。現在までに、その病態基盤は十分に明らかにされていないが、神経発生やシナプス形成等に関わる遺伝子等、800個以上の遺伝子が関係すると考えられている。一方、環境要因の関与もあり、例えば、母親が周産期に感染した場合や、高齢あるいは肥満の父親から生まれた子どもに自閉症スペクトラム障害や注意欠陥・多動性障害等の発症率が高いことが報告されている。このように、自閉症スペクトラム障害には多数の遺伝子や、遺伝子?環境相互作用が複雑に絡み合うことが想定されている。
東北大学大学院医学系研究科の大隅典子教授、吉崎嘉一助教らと理化学研究所の研究チームは、遺伝子の発現を制御する因子Pax6の変異がリスク要因となり、父親の加齢が子孫の行動に影響を及ぼすことを明らかした。
大隅教授の研究チームは、自閉症スペクトラム障害および注意欠陥・多動性障害の病態基盤における遺伝子?環境要因相互作用について検討するために、若齢(3カ月齢)および高齢(12カ月齢)の雄マウスより得られた精子をもとにして体外受精により得られたPax6変異の仔マウスを用いて網羅的行動解析を実施した。その結果、若齢(3カ月齢)の父親マウスから生まれたPax6変異マウスは、超音波発声の低下を示した。また、高齢の父親マウスから生まれたPax6変異マウスは、オープンフィールド試験および尾懸垂試験において自発運動量の増加を示した。
このような行動異常は、若齢の父親マウスから生まれたPax6 変異マウスは観察されなかった。また、自発運動量の増加は、飼育ケージでは観察されないことから、新規環境において初めて現れる表現系であると考えられた。若齢の父親マウスから生まれたPax6変異マウスにおいて自発運動量の増加は観察されず、高齢の父親マウスから生まれた野生型マウスにおいても自発運動量の増加は観察されないことから、Pax6変異というリスク素因と父親の高齢化の影響が協調的に作用することにより、多動傾向が引き起こされたと考えられるという。
今後は、父親の高齢化がどのようにして次世代の行動様態に影響を及ぼすのか、その分子メカニズムを解明する方針である。(編集担当:慶尾六郎)