末期がん少女の「冷凍処置を受けたい」という希望を英裁判所が承認

2016年11月20日 10:43

 末期がんを患った英国の14歳少女が「未来に蘇らせてもらう為、冷凍保存処置を受けたい」と希望し、英国の裁判所がこれを承認、判決後まもなく死去した少女が米国に運ばれて実際に冷凍処置を受けたと英テレグラフ紙が報じた。

 この種の技術はクライオニクス(人体凍結保存)と呼ばれ、医療技術の進歩した未来の世界において「患者」を蘇生することを目的とし、極低温条件下で遺体の保存・管理を行う。元メジャーリーガーのテッド・ウィリアムズなどをはじめ、著名人の「患者」が少なくないことでも知られる。

 報道によれば、裁判の経緯は以下のようなものである。クライオニクスに興味を持った末期がんの少女が、「自分はまもなく死ぬが、200年後の世界で生き返りたい」と考え、処置を受けることを希望した。母親はこれに同意したが、父親が強く反対した。そこで裁判となり、「少女の死後にその遺体をどう処置するか判断する権限は母親にある」との判決が下ったのである。この両親は離婚しており、父親は娘に8年もの間会っていなかったという。

 ただし、裁判の経緯から分かるように、英国の裁判所は母親に判断の権利を委ねたのみであり、クライオニクスの実現可能性や、その科学的な妥当性について何らかの判断を示したわけではない。クライオニクスによる未来での人体蘇生の可能性について、多くの医師・科学者は否定的である。米国の低温生物学協会はクライオニクスに関わる人間を学会から除名している。

 水の分子は凍結すると棘状になる性質を持ち、生物を凍らせるとその影響で細胞が破壊される。これを防ぐ技術的手段は存在せず、哺乳類以上の大型生物において冷凍状態からの蘇生の成功例は知られていない。

 クライオニクスのもう一つの重大な問題は費用である。この少女の場合は3万7,000ポンド(約500万円)が支払われたという。クライオニクスに関わる財団(複数存在する)は、実現可能性のない希望にすがる「患者」たちから巨額の費用を巻き上げている、と多くの人が主張する。米国 「健康詐欺を防ぐ国民協会」会長のウィリアム・T・ジャーヴィス博士は、クライオニクスは「詐欺師の策略」に過ぎないと述べている。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る

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