理研、遺伝子情報の書き換えでマウスの病理改善に成功
2016年11月19日 17:25
理化学研究所(理研)の研究チームが、ゲノム編集と呼ばれる遺伝子操作技術を利用し、有効な治療法の確立されていない遺伝性疾患である網膜色素変性症のマウスの症状を改善することに成功した。
ゲノム編集とは、ゲノム(個々の生物が持つ遺伝子情報の総体)の一部を任意・選択的に改変する技術。近年飛躍的な発展を遂げているが、従来の方法は分裂する細胞に対して行われるものがほとんどで、生体の大部分を占める細胞分裂を起こしていない細胞では、ゲノム編集を行うことは困難とされてきた。
しかし今回、理研の恒川雄二研究員、松崎文雄チームリーダー、米国ソーク生物学研究所の鈴木啓一郎研究員、ベルモンテ教授らの国際共同研究グループは、生体内の分裂していない細胞にも用いることのできるゲノム編集技術を開発し、これをHITI(ヒティ)と名付けた。
現在のヒティの技術では、任意の臓器の3%から10%程度の細胞のゲノムを編集することができる。理研によれば、今後はさらにこの遺伝子改変の効率を向上させるとともに、将来的にはヒトのさまざまな遺伝性疾患に対し、病変部位の異常遺伝子を直接的に改良・修復する治療法への応用が期待できるという。
今回研究の対象となった網膜色素変性症とは、ヒトにおいては3,000人から8,000人に1人程度の割合で遺伝的に発症し、徐々に視力が失われ失明に至ることもある治療不能の難病である。研究グループは、この網膜色素変性症であるマウスの網膜細胞の遺伝子を選択的に操作し、視覚障害を部分的に回復させることに成功した。
ヒトにおける遺伝性疾患の種類は極めて多様で、少なくとも数千種類は存在することが既に知られている。また、国連科学委員会の推定によれば、遺伝性疾患の発言頻度は生まれてくる子供100万人(死産は含まない)に対し10万5,900人、つまり約10人に1人程度になるという。今回の研究は、この遺伝性疾患全体に対して将来的な治療の展望を開くものである。
この研究の詳細は、国際科学誌『Nature』並びにそのオンライン版に掲載される。(記事:藤沢文太・記事一覧を見る)