東大が長期記憶化しやすい時刻を発見
2016年10月16日 23:06
東京大学大学院理学系研究科の清水貴美子助教と深田吉孝教授らの研究グループは、一日のうちで長期記憶をしやすい時刻が活動期のはじめであるという結果をマウス実験によって発見した。これまで時刻によって記憶のしやすさに差があるのではないかと考えられていたが、それが体内時計によるものなのか、どのような仕組みで記憶しやすさに変化が生ずるのかは解明されていなかった。しかし、今回の実験により記憶のしやすさには海馬に存在する体内時計(海馬時計)とSCOPというタンパク質が関係していることが明らかになった。
長期記憶の仕組みは以下のとおりである。学習することによって海馬に刺激が入ると、タンパク質分解酵素であるカルパインが活性化する。カルパインはタンパク質であるSCOPを分解し、それと結びついて抑制されていたK-Rasが活性化する。K-Rasは長期記憶形成に導く遺伝子を活性化させる。このようにして長期記憶は形成されるのだが、SCOPはその仕組みの上流にいる。つまりSCOPは長期記憶の形成にとって重要な存在であり、その量の日内の変化こそ記憶のしやすさに結びついていると言える。実際マウスを使って行われた長期記憶実験のピークとSCOP量のピークは一致するという。これらのピークこそ、活動期の前半なのである。
人間でも記憶のしやすさは1日において変化があることから、今回発見されたメカニズムは人間においても当てはまると考えられる。しかし、今回の実験では夜行性のマウスを使用しているので、昼行性の人間では長期記憶形成のピークは昼の前半(午前中)になるだろう。このような長期記憶のしやすさの変化を把握すれば、効率よく学習をすることも可能である。単純に学業に応用すれば短時間で高い学習効果を身に付けることができるだろう。学校教育においては時間割の工夫や、早朝の時間を利用しての補修に利用することができる。また、社会人向けに出勤前の時間を使った語学学習などの習い事にも有効だろう。そして高齢化社会において関心度の高い、老化による記憶障害の改善に役立てるという面も期待されている。(編集担当:久保田雄城)