【小倉正男の経済コラム】利上げの妨げ――FRBの惑いと逡巡

2016年10月10日 12:46

■年末に利上げができるかどうかは不透明

 アメリカの9月の非農業部門雇用者数は15万6000人の増加となった。雇用者数の増加は、事前の予想(17万5000人)をやや下回った。

 6月28万7000人、7月25万5000人の増加に比べると勢いが見られない。8月に続いて20万人を下回った。ただし、大きく低落したわけではない。それなりの雇用者数の増加を果たしている。

 9月の失業率は5.0%。これまでの4.9%から悪化しているが、労働参加率の増加があり、実体的には変化はない。失業率そのものは大きく改善されている。  時間当たり賃金は上昇している。だが、そう大きなアップではない。

 こうなるとアメリカは年末に再度の小幅な利上げができるかどうか不透明だ。利上げの公算は残しているが、いまのままの状態が新年も継続する可能性がある。  これは年末までいかないと、どうなるのか、何ともいえない。

■利上げの大義名分はあるのか・・・

 総じていえば、アメリカの景気は悪いわけではないが、過熱感は出ていない。インフレやバブルといった兆しがない。

 「(現状は)年内に利上げを行う妨げにならない」――。FRB(米連邦準備制度理事会)のタカ派は、強がるような発言をしている。だが、景気に過熱感がなければ、これは大義名分がないに等しい。

 現状でも刀は抜けるといっても、それはいつもの「常套句」でしかない。無理やり刀を抜いて景気の腰を折れば、“本末転倒”になりかねない。

 世界の景気が思わしくない。晴れ間が見えるのはアメリカのみである。となれば、「年内に利上げを行う妨げにはならない」どころか、「利上げの妨げは少なくない」ということになる・・・。

■アメリカは利上げにかまけず、景気拡大に集中せよ

 利上げを急いでアメリカの景気に水を差せば、世界の景気を暗雲が覆うことになりかねない。「低金利だから金利を上げたい」というだけでは、事を進められない。FRBがいま抱えている状況は、そうしたことにほかならない。

 「本末転倒」といったが、「本」はアメリカの景気であり、そして世界の景気である。利上げは「末」でしかない。

 利上げの本来の使命は、景気を持続するためのものだが、時期を誤って下手に行えば景気を喪失することになる。「末」を弄べば、「本」を失う。

 この際は「末」は一時的に棚上げするべきではないか。アメリカは、自国の景気を拡大することだけに集中すべきである。  「本」に集中して、「本」を大きくするのが、いまのアメリカのなすべき仕事にほかならないのではないか。

(『M&A資本主義』『トヨタとイトーヨーカ堂』(東洋経済新報社刊)、『日本の時短革命』『倒れない経営―クライシス・マネジメントとは何か』『第四次産業の衝撃』(PHP研究所刊)など著書多数。東洋経済新報社編集局で企業情報部長、金融証券部長、日本IR協議会IR優良企業賞選考委員などを歴任して現職)(情報提供:日本インタビュ新聞社=Media-IR)

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