デフレが続く限り日銀の錬金術は有効というパラドックス

2016年10月3日 08:03


*08:03JST デフレが続く限り日銀の錬金術は有効というパラドックス
 8月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、6カ月連続のマイナスとなり、前年同月比0.5%下落の99.6だった。 日銀は大規模な金融緩和を続けているが、またしてもデフレ傾向が強まっている。
 日銀は年間80兆円という凄まじい勢いで国債買い入れを続けており、日銀が保有する国債の残高は400兆円超、国債全体に占める日銀保有の割合は36%超と過去最高を更新している。このまま行くと2018年には50%を超すとみられている。
 日銀がこれほどまでに金融緩和を続けているのに、デフレが進んでしまうのは、人々が景気の先行きや将来に自信が持てず、不安があることから節約して消費を抑え、貯蓄に努めているためだ。
 しかし、このような状況で奇妙な事態が起こっている。日銀は市場から買い付けているとはいえ、国→金融機関→日銀と右から左(この文では左から右)に国債が吸収されており、実質的には日銀の国債引受が実施されているといってよい。中央銀行の国債の引受(直接)自体は法で禁止されている。それは教科書的には、中央銀行が国債を引き受けると、いくらでも通貨を発行することができ、結果として通貨の信用が失われハイパーインフレを引き起こすとされているからだ(輪転機を無限に回して紙幣を刷るようなものと表現される)。
 しかし現在の状況は、景気減速懸念が高まるほど日銀は緩和すると同時に、国民は物より現金に重きを起き、「円」の価値が高まるという状況となっている。世界的な景気減速懸念やブリグジットショック等の懸念もあり国際的にも「円」が買われるという状況にもなっている。リスク回避の際には米ドルよりも円が買われる。不思議なことに日本円に対する内外の信用は高まる一方である(日本の個人金融資産が約1600兆円あり国債の最終的な担保になっているとか、対外資産が世界一等ということが要因と説明されることもある)。
 つまり日銀がどれほど緩和しようと、ハイパーインフレなどには到底なりそうもない状況といえる。
 そして、日銀が保有する国債は順次償還されて行き消滅する。本当は、日銀は形式的には国から独立した機関とされているが、形式的にそうしているだけであって本来的には国の機関である(実際にも国は日銀の持ち分の過半数を保有しており、いわば国の子会社である)。従って、日銀が国債を買い入れると、民法の混同の法理(債権債務が同一主体に帰属すると当該債権債務は消滅する)によってその瞬間国債の債権債務は消滅しているのである。親会社が子会社に対し1億円の債務があり、子会社が親会社に対し1億円の債権を持つことをイメージしてもよい。
 政府は大量に国債を発行して借金できるが、日銀が国債を買ったとたん実はその借金は煙のように消えているのである。現時点で既に国債による借金の三分の二は消えているといえる。これを錬金術といわずしてなんと言うのだろう。
 ともあれ、デフレが続く限り日銀の錬金術は有効であり、このまま物価目標2%に達しないまま永遠の金融緩和が続くほうが実は国にとっては都合がいいかもしれない。《YU》

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