【建設業界の2016年4~6月期決算】手持ち工事の中に好採算の工事が増え、進捗するにつれて利益率が上がっていく

2016年8月17日 21:48

 8月9日、建設業界大手4社の2016年4~6月期(第1四半期)決算が出揃った。

 業績は大成建設が減収減益、大林組が増収増益、清水建設が減収増益、鹿島が増収増益とまちまち。大林組と清水建設の最終利益は第1四半期としては過去最高を記録した。工事採算が改善して売上総利益率は4社とも2ケタ台に乗せ、さらに伸ばしている。

 好調だったのがオフィスビルなどの建築部門で、首都圏、特に東京都心部で都市再開発プロジェクトが活発で大型ビル物件の受注が相次いでいる。受注が好調だと採算性が良い工事を選別できるので、完成工事も手持ち工事もその利益率が上向いていく。マンションの建設が一段落した影響で型枠や鉄筋の工事単価が下がっているのも今後、増益に寄与しそうだ。

 土木部門は、鋼材やセメントなど資材価格が資源市況の低迷で落ち着いており、リニア中央新幹線のトンネル工事が年度内に本格化し、老朽化したインフラの更新需要も望めるなど明るい話題もあるが、人手不足による人件費の高騰が最大の懸念材料。それが利益を圧迫する恐れが残っている。各社とも資材価格の動向への警戒をゆるめていない。揃って通期業績見通し、年間予想配当を修正しなかった背景には、それがある。

 海外事業は輸出産業と同じように、海外工事、海外法人の収益が円高によって円ベースで目減りしている。大成建設はその影響を受けたが、鹿島はアメリカで引き続き受注好調で、円高の影響をはね返し海外関係会社の売上高が約3割、営業利益が約5割も増えた。

 ■4社とも売上総利益率を2ケタに乗せた

 2016年4~6月期(第1四半期)の実績は、大成建設<1801>は売上高10.5%減、営業利益10.3%減、経常利益23.2%減、四半期純利益22.1%減の2ケタ減収減益と悪かった。最終利益の2017年3月期の通期見通しに対する進捗率は17.2%。受注高は3665億円で16.5%減、売上高は土木が23.2%減、建築が4.9%減、売上総利益率は1.3ポイント増の11.9%だった。大幅減益の理由としては土木部門の労務コストの上昇以外に、海外工事の収益、外貨建ての資産額が為替の円高で目減りした影響も出ている。

 大林組<1802>は売上高2.7%増、営業利益54.1%増、経常利益32.3%増、四半期純利益45.3%増の増収、2ケタ増益。最終利益は第1四半期としては算出を始めた2006年以来最高で、2017年3月期の通期見通しに対する進捗率は25.3%。受注高は3923億円で5.6%減、売上高は土木が4.7%減、建築が6.3%増、売上総利益率は2.8ポイント増の11.8%だった。首都圏を中心に東京五輪にからんだ再開発工事、オフィスビルの建て替えなどの需要が旺盛。好採算の国内工事が多かったので単体ベースの建築の完成工事総利益率が3.6ポイント増の10.7%と大きく改善し、大幅増益につながった。

 清水建設<1803>は売上高8.2%減、営業利益29.7%増、経常利益15.9%増、四半期純利益28.2%増の減収、2ケタ増益。最終利益は第1四半期としては過去最高で、その2017年3月期の通期見通しに対する進捗率は22.4%。受注高は2591億円で29.5%減、完成工事高は土木が8.6%増、建築が15.8%減、売上高総利益率は3.1ポイント増の11.3%だった。減収については、工事が大型化したために受注から着工までの時間が長くなり、その影響で完成工事の計上が減ったというのが理由。利益面では好採算の工事が増えている。大型工事は、着工後に追加工事や設計変更が起きると工事採算が良くなる。

 鹿島<1812>は売上高8.2%増、営業利益160.6%増(約2.6倍)、経常利益102.7%増(約2倍)、四半期純利益93.0%増の増収、2ケタ増益。最終利益の2017年3月期の通期見通しに対する進捗率は34.2%。受注高は5507億円で61.5%増、売上高は土木が16.0%減、建築が9.9%増、売上総利益率は4.4ポイント増の13.0%だった。建設事業全体の受注高は前年同期比で66.4%も増えた。営業利益ベースでは土木は16%増、建築は約9倍。手持ち工事の中の不採算工事が減って好採算の工事に入れ替わり、それが進捗することで大幅増益に。海外工事は好調で、円高の影響をはね返して海外関係会社の売上高は30.4%、営業利益は48.5%も増えている。

 ■労務費、資材価格の上昇を警戒して通期見通しを修正せず

 2017年3月期の通期業績見通しは、大成建設は売上高0.4%減、営業利益14.9%減、経常利益15.0%減、当期純利益9.1%減の減収減益で修正なし。予想年間配当は前期と同じ16円で変わらず。受注高予想も前期比1.8%減のまま。マンション建設の減少で型枠や鉄筋の工事単価が下がっているが、人件費増、為替の円高は通期でも大きな減益要因になるとみている。下半期に2020年東京五輪の新国立競技場が本格的に着工するが、総予算が当初構想から約4割も削られている。

 大林組は売上高7.7%増、営業利益10.7%減、経常利益11.4%減、当期純利益0.7%減の増収減益を見込む通期業績見通しも、前期と同じ18円の予想年間配当も修正なし。5.2%減の1兆8500億円の受注高見通しも変わらない。老朽化したインフラの更新工事の受注増を見込んでいるが、国内の土木事業では人手不足による労務費の上昇が影響し利益率は低下するとみている。円高による業績悪化で企業の投資意欲の減退も懸念される。

 清水建設は売上高5.7%減、営業利益0.7%減、経常利益0.5%増、当期純利益9.6%増の減収、最終増益で、最終利益で2期連続で過去最高益を更新する業績見通しに修正なし。前期と同じ16円の予想年間配当も変えていない。受注高は4.3%増の1兆4000億円の見通し。減収は受注から着工までの期間が長い大型工事が多くなるため。労務費、資材価格の上昇を警戒するが、工事採算の改善で吸収し増益とみている。前期の特別損失計上の反動で最終利益は大幅増益を見込む。

 鹿島は売上高9.0%増、営業利益23.5%減、経常利益20.6%減、当期純利益17.0%減の増収減益を見込んだ通期見通しも、前期と同じ12円の予想年間配当も修正なし。受注高は1.1%増の1兆2500億円を見込む。下半期は労務費や資材価格の上昇を想定し、その上昇を織り込んで売上総利益率は前期の11.4%から9.2%に低下する保守的な見通し。(編集担当:寺尾淳)

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