次期NHK会長選びで求められる視点

2016年7月23日 14:40

 「原発報道は公式発表ベースで」「政府が右と言っているものに、我々が左と言うわけにはいかない」「政府とかけ離れたものであってはならない」。NHKの報道姿勢に疑問を抱かざるを得ない発言が続いてきた籾井勝人会長。来年1月に任期が切れる。

 国民の目線で時の権力に堂々と切り込める報道を導き出せる公共放送機関としての姿を取り戻せるかどうか、次期会長にかかっている。民間登用か、NHK生え抜きかを問わず、国民の期待に応える会長の誕生を期待したい。

 次期会長選考のための指名部会で近々、会長選考が始まる。原発、安保法制、参院選などNHK報道の在り方がこれほどまでに『政府寄り』、『偏っている』と言われたことはなかったと思うし、政府に切り込みできないNHKを感じたことはなかった。

 「原発報道は公式発表ベースで」との発言はどのような意図があったかは別にして、報道機関であることを放棄する発言につながる。NHK職員らでつくる日本放送労働組合の中村正敏中央執行委員長が見解で発表した通り、報道する者は「取材してわかった事実、判明した事実」を基本にするのが当然だ。

 中村委員長は「熊本地震への対応のための局内会議で、籾井会長が地震に関連した原発報道について『公式発表をベースに伝えるよう指示した』と報じられた。震災被害のような状況下で行政が果たすべき役割はきわめて大きく、行政の公式発表を『行政はこのように発表しています』と視聴者に伝えるのは放送の役割からして当然」。

 そのうえで「我々は行政とは別にさまざまな取材を行い、判明した事実や事実関係をもとに、行政に質すべきことがあれば質問し、回答も伝え、視聴者に行政がどういう考えをもとに活動しているかも伝えなければならない。行政の判断や活動に問題がある場合には批判するのも当然の役割。行政が何事かを発表し、認定した時点で事実が確定するのではなく、事実はNHK独自の取材活動のなかで見出されるもの。受信料というお金が国庫や地方自治体の財政から出ているのではなく、NHKが直接収納する仕組みであることとも合致する。行政とは異なる視点で社会を取材し、事実を見出し、伝えることをNHKに求めている」。

 引用が長くなったが、この立ち位置こそ、国民がNHKに求めているものであり、NHKが失いつつあるものだ。

 中村氏は「ひと昔まえなら、無用のこととして、書くまでもないことだった」としている。そうなのだろう。しかし、この基本的な立ち位置さえも、改めて確認しなければならない憂慮すべき状況にあることをNHK関係者すべてが自覚し、対処することこそ大事だ。

 今年4月、四国・松山で行われたNHKの視聴者と経営委員、執行部との意見交換会でも参加者から「会長の国会答弁を見ていると、答弁を棒読みしているように思える。そのような答弁しかできない人はNHKのトップとしての資質に欠けていると思う」「会長任期は3年とのことだが、経営委員会の権限で会長を罷免したケースはあったのか。会長に対するチェック機能はないのか」など厳しい問いかけが出ていた。

 経営委員の森下俊三氏は「経営委員会として会長と議論する場を持っており、会長の真意を尋ねるなどの対応をしている。言動については個人の発言の自由もあるので難しい部分もあるが、監査委員の立場でも不適切なことがあれば常にチェックしている」

 「現在は民間企業出身者が会長を務めているが、NHKの中から会長になることもある。しかし、改革を進めなければならないときに、中の人間ではなかなか改革がしにくく、全く違う立場の人のほうが、改革が進みやすいこともあると思っている。今回も前回も民間企業出身の方が会長になっているが、会長の選任に当たっては『その時期に協会をけん引するために最適な人を選ぶ』ということになると思っている」と答えた。

 NHKがNHKとしての役割を果たすために最適な人を選んで頂くことを切に願う。首相が任命する経営委員が会長を選ぶ制度になっているから、根本的改善はできないという意見もあるが、経営委員の自覚、責任において結果に期待したい。そのうえで、NHKの体質が変わらないときには放送法を改正することが必要になるのだろう。(編集担当:森高龍二)

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