子どもを一生むし歯治療させないために、今すぐ始めるべき2つのこと

2016年7月19日 22:52

 【連載第1回】「子どもを生涯むし歯にさせなくない!」という思いは親なら誰もが持っているはず。そんなお母さん、お父さん必読の当連載。「治療をしない歯科医療」を広めようと、全国で講演やセミナーも行っている歯科医師・辻村傑(すぐろ)先生に、子供の口腔健康を守る方法を教えていただきます。第1回の今回は、子どもを一生むし歯治療させないための“2つのポイント”についてお話しいただきました。

子どもを一生むし歯治療させないために、今すぐ始めるべき2つのこと

記事のポイント

●治療をしない歯医者さん

●子どもが笑顔で訪れる北欧の歯科医院

●北欧90% 日本2%の違いって?

●子どもたちの“未来の健康”を守る

●子どもを一生むし歯にさせないための“2つのこと”


 *本連載は2015/2発行の書籍『治療ゼロの歯科医療をめざして(著:辻村傑)』の内容をもとに再編集しお届けします。
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治療をしない歯医者さん

 私が神奈川県伊勢原市に「つじむら歯科医院」を開業してから、20年以上が経ちました。これまで、私は歯科医師としてあるポリシーを持って日々歩み続けてきました。そのポリシーとは、「歯をできるだけ削らない、抜かない治療をする」ということであり、さらには「繰り返しの治療をしない」ということです。そして、その先にある最終的なゴールとして常に私が夢見てきたのは「いつか、まったく治療をしない歯科医師になる」ということでした。

 「治療をしない歯医者さん」って、どういうこと? と思われる方も多いでしょう。ほとんどの方が、「歯医者さん=歯の治療をする人」と思っているはずです。でもよく考えてみてください。虫歯や歯周病になるから治療しなければならないのであって、最初から虫歯や歯周病にならないようにすれば、その結果として治療をする必要がなくなるのです。
 つまり私が目指しているのは、そんな「虫歯や歯周病になる人がまったくいない社会」、特に子どもたちが「一生むし歯にならない社会」の実現なのです。

子どもが笑顔で訪れる北欧の歯科医院

 今、日本の子どもたちに「歯医者さんは行きたいところですか?」と聞けば、おそらくほとんどの子どもが「行きたくない!」と答えることでしょう。この、日本の子どもにとっては当たり前の答えが当たり前でない国、それがフィンランドやスウェーデンなどの北欧諸国です。北欧諸国では、歯医者さんは子どもからお年寄りまで“みなが行きたいところ”なのです。

 そんな社会は実現不可能だ、と考える方もいるかもしれませんが、北欧諸国では実際にそうした社会を実現しています。北欧諸国では、歯医者さんは歯を治療するところではなく、口腔内の病気にならないために、さらには一生健康で幸せに過ごすために、国民のほとんどが赤ちゃんの頃から定期的に通う場所なのです。

北欧90% 日本2%の違いって?

 日本と北欧諸国の違いを実際にデータで見てみると、みなさんその差に驚くはずです。
 定期的に歯科検診・クリーニングを受けている人の割合が、スウェーデンでは90%であるのに対し、日本では何と“たったの2%”しかいないのです。ほとんどの人が定期的に歯医者さんに行っているスウェーデン。一方、100人に2人しか歯医者さんに行かない日本。この差はまったく驚くべき数字です。

 北欧諸国の子どもたちは、生まれたときから定期的に歯医者さんに通って検査をし、虫歯や歯周病になりそうなリスクがあれば、それを事前に取り除く「予防」をしているため、歯の病気にかかりません。驚かれるかもしれませんが、国民全員が生まれてから死ぬまで、一生、歯の治療をしなくてよいのです。

 実際に、私が最初にフィンランドへ留学したとき目にした光景は今でも忘れられません。日本では、歯医者さんへ入っていく子どもたちの顔が一様に曇っているのに対し、フィンランドでは子どもも大人も、みなニコニコと笑顔で歯医者さんへ入って来るのです。そして笑顔で帰っていく。この光景は本当に衝撃的でした。

子どもたちの“未来の健康”を守る

 もしかしたら、「日本は保険で虫歯の治療が安くできるのだからよいではないか」「年に何回も子どもを歯医者さんに通連れていくのはお金のムダだ」と思う方もいらっしゃるかもしれません。
 しかし、定期的に歯医者さんに通わない子どもたちの多くは、将来大きな代償を払うことになるのです。なぜなら、その子たちの多くは生涯に渡って治療を繰り返すことになり、やがては自分の歯の多くを失います。その治療に費やす時間と費用、そして苦痛は膨大です。これはどう考えても早急に手を打つべき深刻な問題で、さらには日本人のQOL(Quality of life=人生の質)を脅かしていることも明らかです。

 また、歯周病のような病気(感染症)が、実は命に関わる恐ろしい疾患であることを、国も一般の人たちもまだあまりシリアスな問題として捉えていません。歯周病は親や家族などから子どもたちの口にも感染します。この感染を放置しておくと、気がついたときには子どもの口の中に悪い菌が住みつき、子どもの健康に大きな悪影響をおよぼします。
 そうならないために、私たち大人は子どもたちの“未来の健康”を守ってあげる責任があるのです。

子どもを一生むし歯にさせないための“2つのこと”

 現在、残念ながら日本の歯科医療には北欧諸国のような「予防」という概念はほとんどなく、「治療」が中心です。ほとんどの歯医者さんでは、ただ単に「削る」「詰める」「抜く」といった治療が行われています。虫歯ができてしまったから削る、穴があいてしまったから詰める、歯がだめになってしまったから抜く。歯科医師も患者さんも、それが当たり前だと思っています。

 しかし、これでは治療という名の応急処置でしかありません。本来であれば、穴があいた原因は何なのかをしっかり調べて、二度と穴があかないようにするにはどのような処置をすべきかを考えるべきであり、それが本当の医療です。
 ところが日本のほとんどの歯科医師は、初めての患者さんが来たらまず簡単なチェックを行い、「じゃあ治療をしましょう」と言っていきなり治療に入ります。治療の前に当然行われるべき、「精密な検査」と、検査結果に基づいて疾患の原因を探り、適切な治療方法を導き出す「診断」が行われていないのです。

 これは考えてみたら非常に怖いことです。例えば、あなたが心臓の調子が悪いとします。病院へ行って心電図をとられて、医師からいきなり「はい、心臓が悪いようなので、とりあえず手術しましょう」と告げられたらどう思いますか?
 現在、日本の歯医者さんで行われている医療は、信じられないことですが、これとほとんど変わりません。医科医療であれば当然行われている治療に入る前の「検査」と「診断」が、歯科医療の世界ではまったく無視されているといっても過言ではないのです。

 お母さんたちにお願いしたいのは、「子どもがむし歯になる前に定期的に歯医者さんに連れて行き“予防”を行うこと」。そして「歯医者さんを選ぶときには必ず“検査・診断”をきちんと行っている歯科医院を選ぶこと」です。この2つを今すぐ始めて、子どもたちに一生むし歯のない素敵な未来をプレゼントしてあげてください。

 (次回へ続く。この連載は週1回の更新を予定しています。)

この記事の話し手:辻村傑さん

この記事の話し手:辻村傑さん歯科医師/T-method Institute 代表2000年にフィンランドトゥルク大学にて「予防歯科」に出会い、細菌レベルで口腔管理する方法を日本に導入。神奈川歯科大学生体管理医学講座薬理学分野大学院卒業。南カリフォルニア大学アンバサダー、インディアナ大学歯周病学客員講師、IIPD国際予防歯科学会認定医、日本抗加齢医学認定医、日本歯科人間ドック学会認定医、日本口腔医科学会認定医。2013・2015年、Probiotics Therapy講師として全国で微生物療法に関する講演活動を行い現在に至る。 元のページを表示 ≫

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