ビッグデータ・ビジネスの鍵を握る「スマートメーター」

2016年7月14日 09:43

 【連載第7回】2016年4月からスタートした「電力自由化」について、図解も交えて分かりやすく解説する本連載。今回は、「電力自由化とITの関係」「電力自由化がもたらす未来」について、『かんたん解説!! 1時間でわかる電力自由化入門』の著者、江田健二さんに話していただきました。

ビッグデータ・ビジネスの鍵を握る「スマートメーター」

記事のポイント

 本連載は書籍『かんたん解説!!1時間でわかる電力自由化 入門』の著者である江田健二さんのお話をもとにお届けしています。

●電力とITが結びつく

●鍵をにぎるスマートメーターかんたん解説!! 1時間でわかる 電力自由化 入門

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2016年4月からスタートした「電力自由化」について、図解を交えて分りやすく解説した入門書。日本の電力業界のこれまでの歩み、世界の電力自由化の現状、電力自由化への企業や家庭の対応策、電力自由化後のビジネスチャンスの広がりなどについて、短時間でスムーズに理解できる一冊です。
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電力とITが結びつく

 電力とITが結びつくと書きましたが、これからは電力業界そのものが「アナログからデジタルの世界にうつっていく」というような意味で捉えていただいたほうがよいかと思います。

 これまでの電気料金計算方法は、担当者が1ヶ月に1回メーターを検針しに来て、「今月はこれだけ電気を使いましたね」とメーターを目で見て検針し、電気料金を計算していました。
 よく考えてみれば、これは非常にアナログなやり方です。検針のためにわざわざ家まで来て電力使用量をチェックして、それをもとに電気料金を割り出す。
 これが今まで日本でずっと続いてきたスタイルなのですが、今後の技術革新によって電力事業のデジタル化へと大きく進化することが考えられます。そこで大きな役割を果たすのが「スマートメーター」です。

 スマートメーターとは、通信機能を備えた電力メーターのことで、電力会社と消費者間で電力使用量のデータを遠隔でやり取りできる機能が備わっています。
 自宅の電力使用量が、一定のタイミングで自動的に電力会社にメールで送信されるとイメージしてもらえればわかりやすいかと思います。

 海外では既にスマートメーターの普及が進んでおり、現在アメリカにおいては、導入率の高い10州では、導入開始から2~4年で約40%の導入率、ワシントン州では2年間で80%を超える導入率にまで達しているそうです。

 今後このスマートメーターが日本でも各家庭に設置されることで、現在のような検針作業は必要がなくなります。
 さらに、例えば30分に1度のペースで電気使用情報を電力会社や情報を利用したい企業に送信することができたり将来的には個々の電化製品と結びつくことでスマートメーターの情報をもとに家電制御ができたり、ということが期待されています。

 電力自由化に伴ってスマートメーターの普及が進むと、電力情報もこれまでアナログ管理していたのが、活用しやすいデジタルデータに変わり、蓄積されていきます。またスマートメーターが電力会社と消費者と第三者をいつでもつなぐ懸け橋となることで、これまでの単なる電気料金メーター以上の役割をもって私たちの生活向上に貢献してくれます。
 これは電力業界のみならす、社会全体における大きな技術的進歩です。

 例えば、スマートメーターの普及に伴って広がっていくと予想されるサービスに、「高齢者見守りサービス」というものがあります。これは、遠くに住んでいる親などが無事に生活しているかどうかを、電力の使用状況などの確認によって知ることができるという便利なサービスです。

 これからの10年で、スマートメーターがほぼすべての企業や家庭に導入される予定になっています。そうなると電力業界も、電話のように以前は家に一本電話回線を引いているだけだったのが、一気に各人が携帯電話を持つようになったほどの劇的変化を遂げる可能性があります。

 このように電力業界が一気にデジタル化することで、電力利用に関する情報の流通も爆発的に活性化するというのが、今後起こるであろう大きな変化です。
電力業界のデジタル化

電力業界のデジタル化

鍵をにぎるスマートメーター

 スマートメーターが普及すれば、電力会社からすればコスト削減となりますし、消費者側にも、いろいろな部分で効率化が図られるというメリットがあります。

 例えば、スマートメーターが計測する詳細な電力使用データを管理する「HEMS」(ヘムス/Home Energy Management System)の専用モニターなどでいつでもデータを見ることができるようになります。
 その結果、消費者は「もっとムダを減らそう」という意識を持ちやすくなります。

 これまでは1ヶ月に1回電気料金が分かるだけでした。しかも検針員がやって来る日は、月によって異なるので、計測期間は月ごとにバラバラでした。これではどの日にどれだけ電気を使ったのかが分かりませんし、そもそもどの機器・どの家電が電気をどれだけ使っているのか、まったく分かりません。
 そのような状況では、節電しようにも「エアコンをつけるのをやめよう」とか「冷蔵庫の開け閉めを減らそう」といった単純な節電対策に限られますし、どの行動がどの程度の節電に繋がっているのかもよく分かりませんでした。

 ところがこれからは毎日・毎時間、電力消費の状況が詳細に把握できるようになり、「この家電はどうもたくさん電気を使っているようだ」「この家電はよく使っているわりには、意外に電気は使っていないようだな」ということまで分かるので、消費者は「意味ある節電」ができるようになります。
 いろいろと仮説はありますが、スマートメーターの普及によって、10~15%くらい節電できるといった試算がされています。例えば、携帯電話料金ですと、追加料金を払えば通話先ごとの通話料明細を出してくれるサービスがあります。それを見て、特定の人への通話に多く料金がかかっていることが分かれば、それに応じてプランを変更するといった対策が打てます。
 こうした使用状況、使用料金を意識することによって携帯電話料金の削減を各々が努力して行っているのと同じように、電気料金も「そうか、あの日はたくさんエアコンをつけていたから電気料金が高かったんだな」ということが具体的に分かるので、効果的な節電行動が増えていくというわけです。

 また、1ヶ月に1回のみ電気使用データをとっていた従来の方法を1だとすると、例えば30分に1回データを取得したとして、1日に48回。それが月30日であれば1ヵ月に1440のデータが集まります。
 つまりデータが今までの1440倍集まるということです。ひとつの家庭だけでなく、何千世帯、何万世帯という家庭のデータが蓄積されれば、電力会社はそこから様々な分析ができるようになります。
 そうしたビッグデータは、今後の発電施設の建設計画を考える上でも重要なデータになりますし、電気を流す送電設備をどのように整備していけばよいかを検討する上でも有効活用できます。

 今までは「1ヶ月にこの人はこれだけ使った」ということしか分からなかったのが、例えばある町の1万世帯の電力使用量が30分単位で分かることで、「こういう時に電力の使用量が上がる」などの情報がビッグデータとして使えるようになります。
 つまりこれが電気とITが結びつく(デジタル化される)ということで、こうした電力消費のデータとその分析結果が様々な分野に活用できるわけです。これが、スマートメーターが普及することによる大きなメリットの一つになると考えられます。

 (次回に続く)

この連載の過去記事

この連載の過去記事この連載の前回までの記事はこちらでお読みいただけます。

この記事の話し手:江田健二さん

この記事の話し手:江田健二さんRAUL株式会社 代表取締役。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社の顧客管理プロジェクト/会計システムリニューアルプロジェクト、大手化学メーカーの業績管理プロジェクト/物流システム改革プロジェクト等に参画。同社で経験したITコンサルティング、エネルギー業界の知識を活かし、2005年にRAUL株式会社を設立。「環境・エネルギー×デジタルテクノロジー」をキーワードに、環境・エネルギービジネスの推進や企業のCSR活動を支援している。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人エコマート運営委員も務める。 元のページを表示 ≫

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