AI(人工知能)は、障害者支援の夢を見るか?
2016年7月12日 21:19
【連載第7回】IoT/AIによる「障害者のソーシャル・インクルージョンの実現」を目的に設立された「スマート・インクルージョン研究会」代表の竹村和浩氏による連載第7回。今回は、AI(人工知能)とIoTによる「社会デザイン」について語っていただきました。
記事のポイント
AIこそ、次世代成長産業の本命
社会デザインとしての障害者の視点
「社会デザイン」3つの視点
1. 障害者の視点
2. 未来から見た社会デザインの俯瞰的視点
3. 具体的ニーズとテクノロジーの視点
前回までの記事はコチラ
【第1回】障害があってもなくても誰もが同じ地平で生きていく―インクルーシヴ社会を理解する
http://biblion.jp/articles/DQ7lr
【第2回】分離からインクルージョンへ! 障害のある子もない子も同じ場で学ぶ教育とは?
http://biblion.jp/articles/tJ5k2
【第3回】障害を持って生まれた娘が教えてくれた、インクルージョンの大切さ
http://biblion.jp/articles/PFWEl
【第4回】“子供より先に死ねない親たち”の思い
http://biblion.jp/articles/H9trE
【第5回】2020年東京オリパラが「AI/IoT×障害=?」の答えとなる理由
http://biblion.jp/articles/26RZn
【第6回】障害×AI/IoT=イノベーション 「障害者」の視点が、日本のスマート技術を飛躍させる!
http://biblion.jp/articles/MRWxP
AIこそ、次世代成長産業の本命
最近、オックスフォード大学が「AI(人工知能)によって、将来多くの仕事が奪われる」といった未来予測を発表するなど、最近AIを巡り様々な議論が沸き起こっています。AIについては様々なネガティブな見解も見受けられますが、私は、AIこそ今後の最大の成長産業分野だと考えています。これからは「AIを動かすスパコン(スーパーコンピューター)の性能が、イコール国力となる」とまで言われています。またAIとIoTにより、世界は加速度的に「自動化」されていくでしょう。
ここにきて、日本の企業もようやくIoT、AI への事業参入を始めています。ですが、既にtoo lateの感が否めません。なぜなら、2012年の時点でアメリカのオバマ大統領は、IoTの次世代産業化を宣言しているからです。その時から既に4年という月日が経過しています。
日本の企業、メーカーがこの20年間陥ってきたドグマ、つまり世の中の流れを見て「やはりそうだ」と後から乗っかる「後追いマーケティング」と、各企業同時多発の「タコツボ化」。そこに大きな問題があります。東工大で生まれた「量子コンピューター理論」、Quantum Annealing による次世代スパコンの芽は、カナダの会社とGoogleによって実用化されてしまっており、ロボティクスについても、東大スピンアウトのベンチャーがGoogleに買収されてしまいました。
ただ、トヨタがそのシャフトの入ったBoston Dynamics社の買収に乗り出しており、再び国産技術による社会の自動化に向けて、遅まきながらスタートを切ったと言えます。
社会デザインとしての障害者の視点
AIとIoTの技術開発においては、実は、社会全体を見据えた「鳥瞰図的」「俯瞰図的」な発想が不可欠となります。私が日本の企業において危惧している点は、この社会デザインともいえる視点が、かなり弱いということです。
特に、日本はある程度高い技術があるため、その個々の技術に依拠した技術開発が進められがちです。これは現在も、多くの企業が陥っている一つのドグマです。無論、それが商品開発としては最も現実的であり、利潤追求の私企業としては当然かもしれません。しかしながら、ことAIとIoTの技術開発においては、常に、非常に広い視野を持って高い理想を描かなければ、個々の「タコツボ」技術に終始しかねないリスクを含んでいるのです。
その最たる例が、日本のロボット開発です。どの企業も早期の実用化と商品化を目標としているのですが、おそらくは資金のスケールにもよるせいか、「わかりやすく」「話題性がある」、というところのみに主眼が向いているように思えます。片や、人工知能の会社であることが「AlphaGo」(アルファ碁)で明確となったGoogleなどは、社内のディスカッションにおけるすべての提案に対して、常に「それは世界でスケールするのか?」という問いがなされるのだそうです。つまり、個々の問題解決も大切だが、それがどれほど世界的な規模での問題解決になるのか?あるいは、世界的な普遍性をもって、広く受け入れられる技術・商品であるか、という視点が問われている、ということなのです。
日本企業にしばしば欠けていると思われるのが、この広い視野、グローバル、かつユニバーサルにスケールするかどうか、という視点なのです。それは言い換えれば、「社会デザイン」の視点ということができます。今後、スーパーコンピューターによって社会のあらゆる分野が制御され、管理されていく時代が到来します。その時代において最も重要なのは、まず、どのような社会を未来に創り上げるのか?という「社会と世界をデザインする視点」を持つことなのです。個々の問題解決に必要な個々の技術開発はできたとしても、それが社会全体とどう連携できる技術なのかが、問われる時代であるということです。
その点、「障害者の視点」は、実は既にしてこの「社会デザイン」の視点を含んだ視点だと言えるでしょう。
「社会デザイン」3つの視点
この「社会デザイン」には3つの視点があります。
1. 障害者の視点
障害のある人たちは、既にして、それぞれが社会的ニーズを抱えて生活しています。ただし、個々の障害によってニーズはまさに千差万別、多岐にわたるものです。それは視点を変えれば、「一つの商品・技術開発においての多岐にわたる視点」でもあるということができます。
障害にもさまざまなものがあります。知的・身体・精神・視覚・聴覚・発達障害、その他多くの障害です。これら多岐にわたる障害の視点から技術開発を考えるとき、その商品の品質はいやがうえにも高まると言わざるを得ません。そして、すべての障害を持つ人のニーズに応えうる技術と商品の開発が、今後の日本のAI/IoTの技術を最大限に高めてくれるのです。そしてそれは、世界に先駆けて超高齢化社会を迎える日本という高齢化社会のフロントランナーにとって、障害を持つ人たち(の視点は、「高齢者の先駆者、先輩である」と言えるのです。
さらに進めて言えば、AIは、とりわけ知的障害を持つ人たちの視点を必要としています。なぜなら知的障害はある意味、発達障害などと同様に「見えにくい」障害だからです。その人たちのニーズを探るためには、AIを駆使したセンサー等による個々のビッグデータの集積が必要となります。それにより、異なるデータを収集・分析し、それぞれの障害をサポートするためのカスタマイズを実施するため、AIと知的障害は、ある意味で最も適した組み合わせなのです。
障害に焦点を当てた、技術・商品開発は、同時に、障害を持たないすべての人たちにとって、最も使い勝手の良い技術・商品・システムとなりうるのです。広い意味で言えば、この世の中で障害を持っていない人は存在しません。みな人それぞれ、何らか不得意な分野を持っています。欠点のない人はいないのです。障害とは、それが単に他の人よりも飛びぬけている、というだけのことなのです。であれば、その極端な事例に焦点を合わせることが、よりよい技術・商品・システムの開発につながり万人にとって便利なものになるはずです。「エクストリーム(極端な)シナリオは、人間工学の限界を試す」ということなのです。
であるがゆえに、障害、とりわけ、見えにくい知的障害に焦点を合わせることは、ことAIの開発にはなくてはならない視点である、ということなのです。障害こそ、技術開発の「フロンティア」なのです。
2. 未来から見た社会デザインの俯瞰的視点
AIとIoTの技術は、今後社会、世界全体に大きなインパクトを与えていくと予想されます。そのため、私たちは予め、必要とされる社会のニーズをデザインしておく必要があります。いかなる技術も、その使い道次第なのです。ところが、あるべき社会の姿というものは、描けそうでそう簡単に描けるものではありません。ただ、視点を障害者の持つニーズに焦点を合わせるとき、大きく、2つの分野にその技術開発分野を絞り込むことが可能になります。一つは「スマート・ハウス」の分野であり、もう一つは「移動支援システム」の分野です。
私が教鞭をとらせていただいている、BBT(ビジネス・ブレークスルー大学)の学長、大前研一氏も述べているように、これからは移動通信ビジネスが大きな市場規模を持ってきます。それと連動して、スマート・ハウスも大きな可能性を秘めています。ただ、既に様々なIoTやAIの技術は存在してはいるものの、それらの技術はまだ「ただ何かができる」というだけで、必ずしも相互に連動してはいません。
しかしながら、障害、とりわけ知的障害のある子の親である私から見れば、そこに必用とされる技術は極めて明確です。それは、「子供の安心・安全の見守りの社会システム」です。スマート・ハウスと移動支援システム、この2つの分野をそれぞれ連動させるシステムを構築すれば、ほぼ社会全体での自動化システムを構築することが可能になります。
個々の商品は、細部にわたりこの2つの枠組みを踏まえ、常に付随連動する形で開発される必要があります。私たちの社会生活は、基本、この「居住」と「移動」の2点に集約することが可能になるのであり、これは障害のある子供の生活を観察することで得られる視点であるといえます。社会デザインの視点は、この「家」と「移動」の2つの分野の連動にあるのです。
3. 具体的ニーズとテクノロジーの視点
では、具体的にどのようにそのニーズを解明すればよいのか?先に述べた「社会デザインの2つの分野」で見てみましょう。まず「移動支援システムの可能性」「移動支援に必要なテクノロジーは何か?」についてですが、ここで重要なキーワードとなってくるのが「高度なセンサー&センター機能」です。 障害および知的障害等のある人の状態を本人が自覚せず、自ら通告できない場合でもその状態を把握するためのセンサー機能とは、次のようなものです。
1.身体状態のセンシング:(ウェアラブル)
発汗・動悸、心拍数、呼吸回数などにより本人の危機的状況を把握する(→自動通知システム)
2.予定ルートを外れた場合の警告・告知
3.予定時間を過ぎた場合の警告・告知
4.本人への音声等による、確認プログラム
5.保護者・支援者との連絡システム
6.位置情報による逐次の位置把握、移動把握、
7.移動支援者との待ち合わせ、2人の接触、コンタクトを自動的に保護者に通知する
8.緊急時の自動応答連絡システム
また「スマート・ハウスの可能性」について言えば、「エネルギー&セキュリティーシステム」が重要になってきます。つまり、「安心・安全・見守りのためのテクノロジー」です。それは具体的には下記のようなものです。
1.身体・心理状態のセンシング:(組込み型センサー・ウェアラブルとの連動)
2.AIとの連動による、スマート・センシング技術(学習による見守り)*HEMS+α?
3.本人、障害特性情報の登録と交信・更新 医療・福祉行政連動
4.地方自治体・医療・緊急対応・支援団体とのネットワーク(コミュニティー)
5.外出先からの遠隔対応・移動の際の遠隔対応センター機能
6.生存および緊急告知システム
7.排泄・移動・食餌等の利便性
8.緊急時の自動応答連絡システム(コミュニティーセキュリティー機能)*地域連動
このように、障害を持つ人の視点からのニーズは明確であり、この視点からの技術開発はハードルは極めて高いものの、「エクストリーム(極端な)シナリオは、人間工学の限界を試す」がゆえに、十全なシステムの開発にもつながると言えるのです。
(次回へ続く)
この記事の話し手:竹村和浩さん
立教大学英米文学科卒業。2016年、元Google米国副社長の村上憲郎氏(現・株式会社エナリス代表取締役)とともに「スマート・インクルージョン研究会」を設立、代表・事務局長を務める。ビジネス・ブレークスルー大学英語専任講師、公益財団法人日本ダウン症協会国際担当、知的障害者手をつなぐ親の会育成会中央支部総務、APDSF(アジア太平洋ダウン症連合)事務局長。著書多数。●スマート・インクルージョン研究会 http://www.smartinclusion.net/
スマートインクルージョン研究会
障害は、本人にあるのではなく社会にこそ存在する。ITの力で障害をスマートに取り除き、障害を持つ人であっても、社会に含まれる(include)社会の実現を目指す、スマート・インクルージョン研究会さんのサイトです。 元のページを表示 ≫
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