できない社員ほどメールが長い。ソフトバンク流儀と伝える技術
2016年6月16日 10:03
【連載第3回】iPhoneもPepperも。孫正義氏と共に常に最新のテクノロジーを日本へ普及させ続けてきたソフトバンク首席エヴァンジェリスト中山五輪男氏。本連載では中山氏が“AIが生み出す「人の働く」への変化”を、遠い先ではないすぐそこにある未来として解説します。本連載のインタビュアーは、自身もワーキングマザーとして働きながら、クラウドを活用したワークスタイル変革に取り組む、リコージャパン古川いずみ氏に担当いただいています。
本連載では、ソフトバンク初のエヴァンジェリストとしてテクノロジーを活用した新しい「働く」を追いかけ続ける中山五輪男さんのお話をご紹介します。第3回となる今回は、「ソフトバンク流イズムはどう伝えるか」と「伝えるスキル」についてです。
*本連載は2016/4発行の「エバンジェリストに学ぶ成長企業のためのワークスタイル変革教本Vol.2」の内容をもとに編集しお届けしています。
http://g10book.jp/book/info/release/workstyle2
目指すはナンバーワン。働き方は自分たちで考えよ
古川:これまで取材した企業には評価制度以外にもいろいろな制度がありました。ソフトバンクさんにはどのような制度がありますか?
中山:ソフトバンクでは、孫の後継者発掘・育成を目的とした「ソフトバンクアカデミア」というものがあります。今、参加者の半分は外部の人間なのですが、ITベンチャーの社長など外部の優秀な人たちが、孫の下で学びたいといって参加しています。
また「ソフトバンクイノベンチャー」という制度もあります。これは、社員が新しい事業のアイデアをどんどん提案する場です。提案した本人をソフトバンクグループ傘下の一社長にしてしまうというのは、手前味噌ですが大したものだと思います。一国一城のあるじになりたいという野心を持っている若い社員からすれば、やりがいがありますよね。
古川:そういったある種の孫イズムというか、孫さんが考える理想的な働き方であるとか、反対に「こういう働き方はするな」というものはあるのでしょうか?
中山:毎年、株主総会の直後に、孫がプレゼンをするのですが、その後幹部社員を集めて、プレゼンを行って、今の業績や今後のソフトバンクの動向など、所信表明演説のようなことをします。
その時は、「社員にはこう働いてほしい」ということよりも「こういう夢のある、こんなことをやろうじゃないか」と、夢を持たせることを話します。うちはやっぱりナンバー1だと。なんでもかんでも、やるからにはナンバー1なんだと。ですから、弊社はナンバー1意識はすごく強いです。それが孫イズムとして根付いているのかもしれないですね。やっぱりやるからには1番、1位を取ろう、みたいな。
古川:とにかくナンバー1。そしてナンバー1を取るためにはいろいろな方法、いろいろなプロセスがあるでしょうが、それは個人個人で考えろということですね。
中山:そういうことです。孫は、ワークスタイルのことまで細かくは言いません。しかし、孫の夢や意気込みは、幹部社員には伝わっています。その幹部社員が感じたものを部下にどの程度伝えているかは、個人差があると思うので何ともいえないですが。
ただ、弊社はイントラネットでいろいろな動画を共有しているので、一般社員も孫の生の声を聴き、その想いを動画から感じとることができます。そういう情報提供の社内整備はしっかりしていると思います。
古川:なるほど。話は少し変わりますが、今回取材している企業の多くが、ワークスタイル変革のキーワードとして「多様性」に言及しています。人それぞれの働き方があっていいという、ワークスタイルの自由度に幅を持たせているような印象を受けました。特にマイクロソフトさんなどは自由な雰囲気が強いのかなと。
中山:確かにマイクロソフトさんはそんな感じがしますよね。マイクロソフトさんは有名な西脇さんだけではなくて、エヴァンジェリストの多い会社でもありますしね。
そういった会社に比べるとソフトバンクはもう少し統制されている気がしますね。「自由奔放」というよりも、どちらかといえば若干体育会系かもしれません。特に法人営業は。「オラオラ行くぞ!」というような感じのところはありますね(笑)。
古川:それは企業文化、風土というか、カルチャーですよね。どちらがいいとか、悪いとかではなく。
中山:そうですね。またそうしたうちの風土が全社にわたってそうというのではなくて、他の部署ではまたカラーが全然違います。部署ごとに、本部ごとにそのチームのトップによるカラー、色づくりがあり、それによって動いている感じがしますね。
始めるのも早いがやめるのも早いのがソフトバンク流
中山:ソフトバンクでは、社員が自分を育てる、お互いを育てるための制度も充実しています。例えば「社内認定講師制度」という社員が講師になる制度もあります。私もその1人なのですが、社員が先生となって他の社員にエクセルを教えるとか、英語を教えるとか、株や経済指標を読み取る方法を教える、といったことをしています。弊社にはさまざまなことを勉強している社員がいますから、人事部の指導のもと、このように社員が講師となって社員を育てていこう、という文化はとてもしっかりと根付いています。
古川:そうしたことも、業務の一環とみなされて、評価に影響するのですか?
中山:評価には直接つながらないのですが、私もそうですが「人に教える」ことってすごく楽しいんですよね。自分としても楽しいし、教えて感謝されることもすごく楽しい。さらに、人に教えることで自分もまた勉強することになるため、自分も成長できますよね。自分のスキルアップにもつながりますし、社員全体のスキルアップにもなるし、感謝されるし、いろいろな面で充実します。古川:様々なワークスタイル、制度をどんどん取り入れているのですね。
中山:一方で、うちは多くの新しいことを始めますが、やめるのも早いです(笑)。ワークスタイルもその時代に応じて臨機応変に対応させています。「一度決めたのだから、ずっとこれでいこう」と執着はしません。
古川:いろいろな意味で変化が早いわけですね。
中山:そうです。事業もいろいろなことをやりますが、ダメなものは静かにクロージングしていく。気が付いたら「あれって、やめていたんですか!」と言われることは結構あります。でも、それでいいと思います。判断をダラダラしない。ダメだと決めたらすぐやめるというその辺の度胸はありますね、うちは。
連絡メールは1行、またはSNSで
古川:先ほど東日本大震災の時のお話がありましたが、これもいろいろな企業に伺っていると、3・11がワークスタイル変革におけるひとつの転機だったという会社さんが多いようです。
今後も、日本ではいつ大きな災害が起こるかわかりません。いわゆるBCP(Business Continuity Plan/事業継続計画)、つまり社員が出社できなくなるような事態が起こっても会社やビジネスを存続させるような取り組みを、ソフトバンクさんではなにか進めていらっしゃいますか?
中山:3・11からは、やはりその辺りをとても重要視していますね。先ほどお話しした全社員にiPadを配るという話にしても、そうした仕組みを取り入れるようになったのは、やはり3・11が契機になりました。
実際私は普段の連絡も全部iPhoneでやっていますし、パソコンでメールは一切打ちません。1日400通くらいのメールのやり取りを、全てiPhoneで行っていますから。
古川:iPhoneで長文メールは打ちづらくはないですか?中山:長いメールは打ちません(笑)。私は、「できない人間のメールほど長文だ」とよく言っています。
Twitterで「続く」ってたくさんの文章をポストしている人がいるでしょう。あれは全然ダメです。思っていることを短い文章にまとめられないということは、営業先に行ってもたぶんきちんと説明できない。おそらく、お客さまが言っていることを理解するにも時間がかかるし、咀嚼もできない。弊社の幹部社員も、上にいけばいくほどメールは短い。1行ぐらいです。下の人間ほど文章が長い。
あと、できない社員ほどメールが長い。LINEはいいですよ。1行2行じゃないですか。連絡はあれでいいと思います。「いつも大変お世話になっております」とかいらないですよね。
私の講演依頼の半分はFacebookのメッセージを通してです。セミナーを受けたお客さまがFacebookで友達申請をしてきて、「ちょっと中山さんに相談があって、今度うちの会社に来て講演してくれませんか」と依頼がきます。最初から親しい言葉でやり取りが始まるから、逆にお客さまとの間のハードルが下がった状態で付き合いが始まる。これはすごくいいことだと思います。こういうSNSのメッセージやチャットの方が、お客さまとの間の垣根を取り払ってくれます。1日何百通ものメールが来たら、返すだけでも大変です。
(次回に続く)
この記事の話し手:中山五輪男さん
1964年、長野県伊那市生まれ。法政大学工学部卒。複数の外資系メーカーを経て、01年ソフトバンクコマース(現・ソフトバンク)に入社。BB推進部の部長としてYahoo!BBのコンシューマ向けセキュリティサービス(BBセキュリティ)の開発やSaaSのエヴァンジェリストとして外部での講演活動に従事。現在はソフトバンクのビジネス推進統括部にて首席エヴァンジェリストとして全国各地で講演、執筆、TV出演等活躍中。国内20以上の大学での特別講師も務めている。Twitterアカウントは「iwaonakayama」。
中山さんも登壇!エバンジェリスト大集結のイベント「re:Work Summit 2016」
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