どうなってるの?世界の電力自由化&素朴な疑問集【連載第2回】
2016年6月14日 19:27
【連載第2回】2016年4月からスタートした「電力自由化」ですが、日本に先駆けて自由化を進めた国が多くあります。今回は『かんたん解説!!1時間でわかる電力自由化 入門』の著者である江田健二さんに電力自由化が日本より進んでいるアメリカ、EU、さらにアジアの実情について解説していただきました。
記事のポイント
●アメリカの電力会社は3000社!
●EUでは巨大総合エネルギー企業が活躍
●これから伸びる市場・アジア
●日本の電力市場規模は7.5兆~8兆円に
*この連載記事は2015/12発行の書籍『かんたん解説!!1時間でわかる電力自由化 入門(著:江田 健二)』の内容をもとに再編集しお届けしています。
http://g10book.jp/book/info/release/denryoku1
前回までの記事はコチラ
●連載第1回:電力会社の競争がないからこそ発展できた日本?
http://biblion.jp/articles/7SksO
世界の電力自由化と日本の電力自由化を理解する
世界各国の電力自由化はどうなっているのか
今回の電力自由化が具体的にどのようなものかについて説明する前に、既に自由化が進んでいる海外における電力自由化の状況はどうなっているのか見ていきたいと思います。
◎アメリカの場合
アメリカでは日本より10年ほど早い時期から電力自由化が行われているのですが、州ごとに法律が違うので、各州で独自に自由化が実施されています。
最も自由化が進んでいる州の一つは、テキサス州です。テキサス州には、売り上げで全米7位までになった総合エネルギー会社のエンロンがあったり、テキサス出身で共和党のブッシュ大統領(当時)が積極的に電力自由化を促進したからです。その影響で今でも共和党が強い州は自由化が進んでいます。
現在はアメリカ全体の約3割の州で自由化され全米で電力会社が3000社ほど存在するという、激烈な競争になっています。自由化された州では、激しい競争が行われてきたおかげで、消費者にとって魅力的な多様な料金プランやサービスが生まれています。
また、自由化にともなって、電力の消費データを活用した様々なIT企業が生まれています。これは既に撤退してしまいましたが、グーグルが「Googleパワーメーター」という消費電力量の計測アプリを開発したり、それ以外にも様々なベンチャー企業が電力消費データを使って新しいビジネスをしていこう、という気運が非常に高まっています。
ただし、自由化したあとに前出のエンロンが倒産し、その影響もあってか、カリフォルニアで大停電が起こり、自由化はもうこれくらいでいいのではないか、と少し停滞気味になっている印象があります。ですから、今後も全ての州が自由化を推進していこう、というよりは、自由化を進めたいと考える州は積極的に行い、それ以外の州はどちらかというとあまり自由化に積極的ではない、という状況になっています。
アメリカの電力自由化は、このように国全体として足並みがそろっていないので、電力事業がやや複雑になってしまっています。例えば、テキサス州からどこか別の州に引っ越したとしたら、その州でまた新しい契約をする必要があったり、希望する電力会社のサービスが受けられない、といったことが起こってしまうのです。
世界の電力自由化事情―アメリカ
しかし、自由化のおかげで前述のように、多くの電力事業を行う企業が生まれましたし、電力事業周辺でも多くのベンチャー企業が生まれてきている点は、アメリカにおける電力自由化のよい結果と言えます。また、それらのアメリカ系企業が今回の電力自由化に伴い、日本の電力事業市場に進出しようとしていますので、日本企業も油断していられないという状況です。
◎EUの場合
電力自由化は、今のところアメリカよりもEUの方が進んでいます。EUは、各国が細かいルールなどを含め足並みをそろえて自由化を推進しているためです。
EUではイギリス・ドイツ・フランスを筆頭に多くの国が自由化を実施していますが、これ以外にもイタリアやスペイン、また北欧諸国などでも自由化が進んでいます。
中でも注目されているのはドイツです。ドイツでは自由化に伴って非常に多くの電力会社ができていますし、電気だけでなくガスやその他のエネルギーも一手に扱う総合エネルギー会社も生まれています。また太陽光や風力などの再生可能エネルギーの利用も進んでいます。そういった意味では、電力自由化を含むエネルギー産業の活性化においてはドイツが一番積極的で進んでいると言えるでしょう。また、イギリスでも電力自由化により、多くの電力会社が生まれましたが、競争の結果、現在6社くらいの電力会社に電力事業がほぼ集約されています。
EU諸国では自由化したあとに、多くの企業が電力事業に参入して、様々な料金プランができました。最近では、そうした企業同士の合併や統合が進んでいます。その結果、電気だけではなく、ガス・水道、インターネットサービスなどをまとめて消費者に提供する総合エネルギー企業が誕生しています。EUでは今、こうした大規模な総合エネルギー企業が国境を越えて多種多様なサービスを提供するようになっており、市場全体、経済全体において非常に大きな存在感を示すようになっています。
世界の電力自由化事情―EU
わかりやすくお店に例えると、最初小さな果物屋さんがあり、それがどんどん統合されて大型食品スーパーになり、最後には食品だけではなく、豊富な種類の商品を売っている大きな商業施設のようになっていったと想像していただければよいでしょう。
このように、EUではもはや世界レベルで戦えるような総合エネルギー企業が複数誕生しているので、その企業が日本市場、アジア市場にどんどん進出してくる可能性は十分にあると思います。
電気料金に関しては、日本の「FIT」(フィードインタリフ:再生可能エネルギーの普及を図るため、再エネで発電された電気を電力会社に一定期間、固定価格で買い取ることを義務づけた制度)のように、再生可能エネルギーを国民負担で買い取りましょうという制度導入の影響もあってか、自由化以降もあまり下がっておらず、むしろ上がっている国や地域もあります。
◎アジアの場合
一方、アジアはどうかというと、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシアなどASEAN諸国の他、インドなどにおいては、現時点ではまだ自由化が進んでいるとは言えませんが、今後は他の地域と同様に自由化されることが期待されます。その点で、日本からすると、これらアジア諸国と協力して新しいマーケットを育てていける可能性が大いにあるため、アジア諸国の電力自由化は日本にとっても非常に望ましいことであると言えるでしょう。
旅行に行くと肌で感じますが、アジアの経済成長は著しく、産業用電力を中心に電気に関するニーズが非常に高まっています。新たに電力事業を始めるには、発電所など新たな設備投資に多くの資金が必要なので、積極的に外国資本(お金)や外国企業の建設・運営ノウハウを取り込んでいこうと考えている国が多いのです。アジア諸国の多くは、電力自由化の拡大だけではなく、あらゆる分野の市場を開放することによって、世界のノウハウを集めて成長していこうという方向で考えているでしょう。
アジア諸国は、先進国に比べると国全体の電力消費量がまだ少ないのですが、今後電力消費量においては大いに伸びしろがある地域と言えます。例えば各家庭に1台ずつテレビが入ったり、洗濯機が入ったり、エアコンが全部の部屋に取り付けられたり、2階建ての木造の建物が5階建ての鉄筋コンクリートになってエレベーターが設置されたり、照明がついたりなど、今後急激にエネルギー消費量が増えていくことが予測されているのです。あるデータによると、東南アジアのエネルギー需要は2035年までに今よりも80%以上伸び、現在の日本のエネルギー需要と同等になると言われています。
おそらくアメリカやヨーロッパ、日本などでは、国全体の電力需要は今後さほど伸びないと予測されます。一方、アジアは将来的に世界最大の電力需要マーケットになると考えられます。
日本の発電技術など電力事業に関わる多岐にわたる技術やノウハウが活かせるアジア市場は、日本の電力関連企業にとって非常に魅力的なのではないかと思われます。
世界の電力自由化事情―アジア
2016年4月に始まった電力自由化とは何か?
こうした世界的な電力自由化の流れの中、いよいよ日本でも2016年から本格的な自由化が始まりました。
今回の電力自由化というのは、正確に言うと「電力の小売全面自由化」ということです。つまり、前述のようにこれまで新しく設立された電力会社は、電力を一定の企業などにしか売ることができませんでした。それが「一般家庭や個人商店などにも売ることができるようになり、個人を含めたすべての電力利用者が対象になる、また消費者側でも自由に電力会社を選択する権利を持つことができる」というのが今回の電力自由化の大きな特徴です。
特に一般消費者、一般家庭からすると、今まで選択の自由がなかった電力会社を自由に選択できるというのは、非常にインパクトがあります。生産者から消費者への一方的な関係性が、双方向の関係性に変わることを意味しています。今回の自由化で広がる市場規模は、およそ7.5兆~8兆円と言われています。消費者の件数で見ても約7千万件が自由化の対象となります。コンビニエンスストアの市場規模が10兆円程度ですので、その大きさに近いとても大きな市場が開放されるということです。
また、今回新たに自由化の対象となる中小企業や個人商店などは、大企業のように既存の電力会社のしがらみがほとんどないので、少しでも安ければ新しい電力会社から電気を買おう、と考えるでしょう。ということは、その影響で非常に大きな業界変革、市場変革が起こる可能性もあり、これはビジネス的にも非常に注目されています。
既存の電力会社としても、これまでは顧客を留めておくことができたけれども、今回ばかりは厳しいのではないかと、危機意識を感じているところが多いと思われます。
電力自由化で広がる市場規模は約8兆円!
電力自由化に関する素朴な疑問
最後に、電力自由化の話をしていると必ずといってよいほど聞かれる素朴な疑問にお答えしたいと思います。
★疑問1 「電力会社を替えると停電が増えたりしないの?」
回答 新しい電力会社から電気を購入しても停電が増えることはありません。電気が家に届く経路はいままでと同じです。新しい電線を引く必要もありません。電気自体はこれまでと同じ送電網を利用するので、停電が増えたり、不安定になったりということはありませんので安心してください。
★疑問2 「電力小売り会社はどこから電気を仕入れているの?」
回答 電力自由化後に参入する会社の中には、自社で発電設備(発電所)を持たない会社も複数あります。そのような会社は、他社の大規模工場にある自家用発電機などから電気を仕入れたり、自治体が保有するゴミ焼却場などで発電する電力を仕入れたり、電力の取引市場から仕入れたりします。農家や卸売市場から生鮮食品を仕入れて販売するスーパーのようなイメージです。
★疑問3 「切り替えは、大変? どれくらい期間がかかるの?」
回答 切り替え先の電力会社に連絡する形になります。必要書類を提出すれば、切り替え手続きは、電力会社が行ってくれます。切り替え作業自体は、30分~1時間程度です。また、申し込みから切り替えに必要な期間は、スマートメーターが設置されていれば数日、未設置であれば1~2週間程度が一般的になると想定されます(スマートメーターへの交換にかかる費用負担や工事の手配の必要はなく、送配電事業を担う切り替え前の電力会社が責任をもって交換してくれます)。
(次回に続く)
この記事の話し手:江田健二さん
RAUL株式会社 代表取締役。慶應義塾大学経済学部卒業。アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア株式会社)に入社。エネルギー/化学産業本部に所属し、電力会社の顧客管理プロジェクト/会計システムリニューアルプロジェクト、大手化学メーカーの業績管理プロジェクト/物流システム改革プロジェクト等に参画。同社で経験したITコンサルティング、エネルギー業界の知識を活かし、2005年にRAUL株式会社を設立。「環境・エネルギー×デジタルテクノロジー」をキーワードに、環境・エネルギービジネスの推進や企業のCSR活動を支援している。一般社団法人エネルギー情報センター理事、一般社団法人エコマート運営委員も務める。
via www.amazon.co.jp
かんたん解説!! 1時間でわかる 電力自由化 入門
¥1,080
2016年4月からスタートする「電力自由化」(電力小売完全自由化)について、図解を交えて分りやすく解説した入門書。日本の電力業界のこれまでの歩み、世界の電力自由化の現状、電力自由化への企業や家庭の対応策、電力自由化後のビジネスチャンスの広がりなどについて、短時間でスムーズに理解できる一冊です。
http://g10book.jp/book/info/release/denryoku1
販売サイトへ
連載一覧
関連する記事
答えられますか? 電力自由化に踏み切った本当の理由
電力会社の競争がないからこそ発展できた日本?【連載第1回】
魅力的なCSRウェブはこう作る。基本ポイント再チェック!
押さえておくべき「CSRウェブでの情報発信、4つのポイント」【連載第2回】
わかってはいるけれど・・・なかなか手が回らない!?CSR担当者の本音【連載第1回】