「いすゞ」と「日野」が複数台トラックの隊列自動運転について、協働で技術開発に取り組む

2016年6月5日 09:30

 商用車メーカー、いわゆる“トラック&バス”の製造者である「いすゞ自動車」と「日野自動車」が、トラックの自動運転技術を共同で開発すると発表した。

 いすゞと日野は、これまでにもトラック&バスに、運転支援技術を積極的に搭載するなど、個社で安全技術の普及に努めてきたが、今回の合意に基づき、自動運転システムの実用化に向けてのベース技術となるITS(路車間・車車間通信)システムや高度運転支援(自動操舵・隊列走行)技術について、両社で共同開発を行なう。2社が共同で取り組むことにより、開発の効率化を図る。

 いすゞと日野はこれまで、環境技術では2008年からディーゼル排気ガス後処理装置で協業してきた実績があり、2004年からはバス事業でも協業している。両社が出資した「ジェイ・バス株式会社」が、いすゞと日野のバスを生産・供給しているという関係にある。

 今回の協働開発の目的は、3台以上の複数台のトラックが連なって走る縦列隊列走行に必要なシステムの実用化を目指す。国内において大型トラックドライバーの人手不足が慢性的で、将来的に自動運転が不可欠な機能になると判断した。海外の独ダイムラーなど同様の技術に取り組む国際的な勢力に対抗し、国内2社が協働し、この分野での先行を目論む。

 一方、メルセデス・ベンツを主要自動車ブランドとする独「ダイムラー社」は2025年までに自動運転に対応したトラックを市販する計画。同社は5月21日、2020年までにトラック部門のデジタル化対応に総額5億ユーロ(約630億円)を投じると発表。センサーや車載通信などを使った自動運転関連の技術を開発し、燃費改善につながる運行管理などサービス分野も広げる。前述したように、同社は2025年までに自動運転トラックを市販する計画で、関連の技術やサービスを拡充し収益源を広げるという。スウェーデンのボルボやスカニアなどの大手トラックメーカーを抱える欧州では、オランダで既に隊列走行の実験が始まっている。

 トラックなどの隊列自動運転は、カメラやセンサーが先行するトラックや車線を認識してトラック同士が相互に通信して車速の変化に対応。車間距離をキープしながら隊列で運行する自動運転メカニズムだ。

 こうした動きを睨んで経済産業省は今年度の予算で“トラックなどの自動運転”準備にかかる費用として約19億円を計上。来年度以降も予算要求する。国内道路交通の渋滞緩和と物流の効率向上のため、2021年度以降、商業運行を目指し、高速道路でのトラックなどの隊列走行の実証実験を、2018年度に実施するとしている。物流に関わる大型トラックに「隊列」を組ませて自動運転で高速道路を走らせる実験だ。舞台は深夜の東名高速道路や東北自動車道などが有力だ。

 経産省と国交省が実験する隊列走行では、運転手が操縦する先頭のトラックを後続トラックが自動運転で追随する。2018年度までに産業技術総合研究所や日本自動車研究所のテストコースで安全性の確認を終え、2019年度には公道で実験する。先頭車両のスロットル開度やブレーキの踏みしろ・作動状況を通信で後続車両が取得、それに応じて後続車両を制御して一定の車間距離を保つ。高速道路走行時に先頭車と後続車との車間距離を10m以下程度まで短縮できれば、いわゆる“スリップストリーム状態”となり空気抵抗が大幅に減り、燃費も向上する。

 高速道路の渋滞は、ブレーキを踏むタイミングの“ずれ”や“緩い上り坂での減速”が原因だ。トラックの自動隊列走行は、この渋滞緩和にも貢献する。もちろん、現実的には、夜間の高速道路で長距離走行を3台以上で縦列走行することを想定し、いすゞと日野の2社は、この目標に沿って自動運転技術を開発する。

 究極的には、先頭のトラックだけ運転手が操縦し、後続車両はトラック間の通信によって、先頭車両のステアリング操舵やスロットル開度、ブレーキ踏力に合わせて“コンボイ状態”で追随する。当面、後続車両に運転手を座らせるとするが、運転はしない。道路運送車両法や道路交通法上は、先頭トラックが後続トラックを電子的に“牽引”している“トレーラー状態”となることになる。

 物流業界ではトラックドライバーの人手不足が深刻だ。インターネット通販の広がりなどで宅配を含めた物流の需要は今後も増える。自動運転技術を使った縦列隊列走行が実用化されれば、人件費負担を抑えながら多くの荷物・物資を運べる。(編集担当:吉田恒)

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