動物の求愛は脳に存在する神経細胞で出来た“二段構えの抑えのスイッチ”が即断する

2016年5月25日 12:20

 人と人との巡り会いなくして、社会は成り立たたない。一方、動物の世界では、出会いの結末は比較的単純だ。雄が雌に出会えば求愛し、雄に出会えば攻撃する、という二者択一が多くの場面で成立する。この二者択一の行動選択はほとんど瞬時になされ、決断を巡る葛藤は稀である。しかし、この即断が正しく行われる脳の仕組みは不明だった。

 今回、東北大学大学院生命科学研究科の山元大輔教授と小金澤雅之准教授は、北海道教育大学の木村賢一教授の協力のもと、ショウジョウバエを使った実験で、脳に存在する神経細胞で出来た“二段構えの抑えのスイッチ”が、この即断の鍵であることを発見した。求愛中枢は、このスイッチの一段目の抑えが解除されるとすぐにオンになる一方、攻撃中枢は一段目のスイッチに続いて二段目の抑えが解除されて初めてオンになるという。

 雄が求愛行動をするには、fruitlessと呼ばれる遺伝子の機能が必要。fruitless 遺伝子はおよそ10万個ある脳の神経細胞のうち約2000個(Fruitless 細胞と呼ぶ)で働いており、この遺伝子が雄の脳内のこれらの細胞でFruitlessタンパク質を合成し、一方雌の脳ではFruitlessタンパク質を作らないことで、脳に性差を生み出す。Fruitless細胞のうち、P1の名で知られる約20個からなる細胞グループ、P1細胞群は雄にしかなく、このP1細胞群が雄の求愛中枢であることがわかっている。

 今回山元教授らは、P1とそっくりの形をしたFruitlessを持たない細胞、pC1が約20個存在し、このpC1が攻撃中枢であることをまず立証した。P1細胞群を人工的に興奮させると、雄同士が求愛をはじめるのに対して、pC1細胞を興奮させるとけんかを始める。このことから攻撃と求愛の中枢は鏡の両面のような関係にあることがわかった。

 続いてP1細胞の“直接の上司”としてLC1細胞群を特定し、LC1を人工的に興奮させれば雄が求愛をやめることから、この上司は、「愛の抑制者」であることを示した。ところが、LC1がこうして興奮するとP1とは逆にpC1細胞群は活動を開始し、結果、攻撃が引き起こされるという。つまり、LC1細胞群は求愛中枢に対しては「愛の抑制者」として働き、同時に攻撃中枢には「怒りのアジテーター」となることがわかったの。ただしLC1細胞群は攻撃中枢に直接働きかけるのではなく、mALというもう一つの細胞群を介して作用する。

 このmAL細胞群は普段、攻撃中枢の暴走を抑える監視役として働いており、LC1はこの監視役による抑制からpC1を解き放つことで攻撃を引き起こしている。このようにLC1細胞群は、求愛中枢に対しては直接ブレーキをかけ、攻撃中枢に対してはワンクッション置いてのブレーキ解除により攻撃プログラムを起動させる、いわば二段構えの抑えのスイッチとして働いていることが明らかとなった。

 pC1細胞群が活性化すると攻撃行動が引き起こされ、一方、P1細胞群が活性化すると求愛行動が引き起こされるが、それがなぜなのか、についてはこれからの課題だという。また、“二段構えの抑えのスイッチ”が我々人類を含む多くの動物で、攻撃抑制のメカニズムに組み入れられている一般則なのか否か、解明が待たれるとしている。(編集担当:慶尾六郎)

関連記事

最新記事