【電機業界の2017年3月期決算】危機を脱した企業もあれば、危機真っただ中の企業、再出発したばかりの企業もある
2016年5月20日 10:55
5月13日、電機業界大手8社の2015年3月期本決算が出揃った。ソニーとパナソニック以外の6社は営業減益、または営業損益が赤字だった。ひと言で言えば、ソニーは元気を取り戻して最終黒字化、復配。パナソニックは傷あとが薄れつつあり、経営危機のシャープは債務超過に陥ったが鴻海傘下での再出発が決まっている。日立は事業再構築に本腰を入れて減収減益は承知。東芝は危機の出口がまだよく見えない。三菱電機は主力のFA以外が悪くて減益。NECは「C(コンピュータ)もC(通信)も、ともに不振」で営業減益、経常減益。富士通は30%を超える大幅減益だった。
構造改革の成果があがらなければ、残された選択肢は再編という名の事業の切り離し。台湾企業がシャープの再建スポンサーになり、東芝は白物家電事業を中国企業に譲渡したが、今期も業績の立て直しを図るために海外の企業も巻き込んだ「事業再編」のビッグニュースが飛び交いそうな気配が漂う。
■ソニーは復活しても他はおおむね業績不振
2016年3月期の実績は、ソニー<6758>は売上高1.3%減、営業利益は329.2%増(約4.2倍)、税引前当期純利益は666.5%増(約7.6倍)の減収、大幅増益。最終当期純損益は2015年3月期に計上した1259億円の赤字から1477億円の黒字に転換できた。2015年3月期は無配だった年間配当は復配して20円。
CMOSイメージセンサーなど電子部品は減損損失を吸収して部門採算が増益になるほど好調だった。「プレイステーション4」の本体やソフトが売れたゲーム関連分野も売上を12%伸ばし、スマホ分野は機種を「エクスペリア」など高付加価値製品に絞り込んだだため売上は20%減ながら、採算は改善した。テレビは「4Kテレビ」が、カメラは高価格帯の一眼レフが売れ、コストの削減効果も出て利益の大幅増につながった。吉田憲一郎副社長は「ソニーブランドが元気になってきた」と表現した。
パナソニック<6752>は売上高2.1%減、営業利益8.8%増、税引前利益19.0%増、当期純利益7.7%増の減収増益。年間配当は7円増配して25円。減収の要因は中国の景気減速によるエアコンの販売減だが、白物家電全体では好調だった。営業利益、最終利益の増益幅は2015年3月期から圧縮したが、2期前と比べると売上高営業利益率は3.9%から5.5%に、売上高最終利益率は1.5%から2.5%に改善し、「利益を重視する」構造改革の効果は着実に出ている。2013年3月期までの連続最終赤字の傷あとも薄れつつある。
シャープ<6753>は売上高は11.7%減、営業損益は赤字額が480億円から1619億円に拡大、経常損益は赤字額が965億円から1924億円に拡大、当期純損益(最終損益)の赤字額は2223億円から2559億円に拡大。当然ながら普通株は無配継続。主力製品の液晶パネルも、太陽光発電も、空気清浄機も、スマホ、携帯電話も売上が伸び悩んだ。設備や在庫の評価損で多額の特別損失を計上し、最終損益の赤字が拡大した。赤字決算に加えて連結ベースで債務超過に陥り、規定により8月から東証2部に降格するが、決算発表前に鴻海精密工業グループとの戦略的提携が決まったことで安堵感も漂う。
日立<6501>は売上収益2.7%増、営業利益1.0%減、税引前利益0.4%減、当期利益14.2%減、最終当期利益20.8%減の増収、2ケタ最終減益。売上収益は10兆円台を回復したが2期連続の最終減益。年間配当は12円で据え置き。情報・通信システム部門は堅調だったが、中国など新興国や産油国で景気減速に伴う投資の抑制が続き、強みを持つ建設機械、プラント、社会インフラ関連などが苦戦した。
東芝<6502>は売上高7.3%減、営業損益は1884億円の黒字から7191億円の赤字に転換、継続事業税引前当期純損益は1566億円の黒字から6422億円の赤字に転換、当期純損益の赤字額は378億円から4832億円に大きく拡大して、赤字決算。年間配当は4円減配して無配。
テレビ、パソコンなどライフスタイル部門は38%の減収、半導体など電子デバイス部門は9%の減収。リストラを進めたパソコン、家電、半導体は構造改革関連費用がふくらんだ。電力・社会インフラ部門は増収だが採算が悪化している。最終損益は構造改革費用、ウエスチングハウスの事業価値の見直しなどで計上した固定資産の減損損失、不採算案件の引当金、棚卸し資産の評価減などが次々と発生して赤字が大幅に拡大。繰り延べ税金資産3000億円の取り崩しや、東芝メディカルシステムズ株の売却益3817億円を計上しても、焼け石に水だった。
三菱電機<6503>は売上高1.6%増、営業利益5.2%減、税引前当期純利益1.4%減、最終当期純利益2.6%減の増収減益。2015年3月期の大幅増益から一転、減益。年間配当は27円で据え置き。主力のFAは堅調で、北米やヨーロッパでの自動車販売の好調さを受けて自動車機器の販売は伸びたが、それ以外の部門の売上高は重電システム31%減、電子デバイス44%減と悪い。下半期の為替の円高進行、社会インフラ事業の採算悪化が響いて減益決算になった。
NEC<6701>は売上高3.9%減、営業利益16.2%減、経常利益26.2%減、当期純利益20.0%増の減収、最終2ケタ増益。営業利益、経常利益は2015年3月期の2ケタ増益から2ケタ減益に転じた。年間配当は2円増配して6円。官公庁向けシステムは航空・宇宙関連が不振。期待の「マイナンバー特需」「サイバーセキュリティ投資」は不採算案件が多かったという。通信事業者向けシステムも設備投資が抑えられた。最終増益は子会社の解散に伴う税負担の軽減によるもの。
富士通<6702>は売上収益0.3%減、営業利益32.5%減、税引前利益33.7%減、当期利益37.6%減、最終当期利益38.0%減の減収、大幅減益。2015年3月期の大幅増益から一転した。年間配当は8円で据え置き。官公庁や企業のシステム更新需要が他の事業の減収をカバーし、海外向けの電子部品も好調だったので減収は小幅にとどまったが、採算は悪化。最終減益幅が大きいのは、パソコン事業の分社化などに伴う構造改善費用を415億円計上したため。
■稼げない分野は稼げる分野に変えるか?それとも切り離すか?
「総合電機」という業態は、全体の業績ではどうしても「稼げる分野」と「稼げない分野」が出てくるもの。稼げない分野は、テコ入れして稼げる分野に変えるか? それともロープをほどいてボートを切り離すか? それには高度な経営判断を必要とする。テコ入れしてもダメな場合もあれば、切り離したボートにお宝が隠れている場合もある。今期はそんな「事業再編」にからんだドラマがいくつか生まれそうな気配がある。
2017年3月期の通期業績見通しは、ソニー<6758>は4月の熊本地震による連結業績への影響を精査中で、4月28日時点では今期業績見通しも予想年間配当も公表しなかった。5月24日をメドに公表する予定。「復活ソニーの期待の星」イメージセンサー、ディスプレイデバイスの基幹工場のソニーセミコンダクタマニュファクチャリング熊本テクノロジーセンターが被災した。もっとも、イメージセンサーの収益は熊本地震の前からスマホの減速で陰りをみせていた。それに代わって今期、頼りになりそうなのは堅調が続く金融分野と、ゲーム関連か?
パナソニック<6752>は今期から米国会計基準から切り替えて国際会計基準(IFRS)の任意適用を受けるため前期との単純比較はできないが、売上高は7兆6000億円、営業利益は3100億円、税引前利益は3000億円、当期純利益は1450億円を見込んでいる。予想年間配当は未定。仮に米国会計基準で計算すれば、最終利益は前期比30%減の1350億円となるという。
重点を置く「住宅と自動車」では、施設介護やリフォームなど住宅事業で人員増などの先行投資を進め、車載機器は開発費用がふくらむ。固定費が増加し収益が圧迫されるが、投資効果に見合う今後の成長に期待してのこと。一方で業績不振の事業は締め切り(デッドライン)を設け構造改革に取り組むとしている。津賀一宏社長は「各事業部で利益貢献を明確な目標として取り組む」と話す。
シャープ<6753>は今期の業績見通しについて「現時点で鴻海精密工業グループとの戦略的提携に伴うシナジー効果など具体的な算定が困難」として公表しなかった。10月とみられる出資完了後に公表する予定。普通株の予想年間配当は無配継続。
日立<6501>は売上収益10.3%減、営業利益14.9%減、税引前利益16.8%減、当期利益0.1%増、最終当期利益16.2%増。2期連続の営業減益。予想年間配当は未定。
採算性が低い物流事業、金融事業で日立物流、日立キャピタルの株式を売却し、空調事業も再編するなど事業再構築の影響が売上高にも営業利益にも現れ、円高で輸出採算も悪化する見通し。約3000人削減などのリストラ策も発表した。営業減益の3分の2は事業再構築に伴うもの。最終増益の要因は税負担の減少による。当面の減収減益は承知の上で、IoTなど「成長分野」「稼げる分野」「強みを活かせる分野」への経営資源の選択と集中、事業ポートフォリオの最適化を進めていく方針。2019年3月期の売上高営業利益率の目標を8%超に定めた。
東芝<6502>は売上高9.0%減、営業損益は200億円の黒字に転換、継続事業税引前当期純利益は850億円の黒字に転換、当期純利益は1000億円の黒字に転換を見込む。予想年間配当は未定。テレビなど映像機器を除く白物家電は東芝ライフスタイル株の80.1%を中国の美的集団(ミデア)に譲渡して切り離し、富士通、VAIOとの統合が白紙に戻ったパソコン販売は49%減を見込むが、原子力事業や主力の半導体事業で構造改革費用の計上がヤマを越え、それが採算黒字化見込みの要因。しかし財務を元通りに立て直すまでには10年スパンの時間がかかりそうだ。
三菱電機<6503>は売上高2.6%減、営業利益13.7%減、税引前当期純利益12.1%減、最終当期純利益12.5%減という減収、2ケタ減益の見通し。予想年間配当は未定。FA分野は中国のスマホ生産の復調に期待するが、想定為替レートはドル円105円、ユーロ円120円で前期よりも円高想定。為替要因で売上高は1300億円程度、営業利益は約500億円押し下げられそうだという。前期好調だった自動車機器の主要販売先が燃費データねつ造問題で今期の販売減が予想される三菱自動車なのも、本決算時の見通しではそれを織り込んでいないので影響が出そうだ。
NEC<6701>は今期から国際会計基準(IFRS)の任意適用を受けるため前期との単純比較はできないが、売上高2兆8800億円、営業利益1000億円、最終当期利益500億円を見込む。IFRSで計算し直した前期の最終利益759億円と比較すると34.1%の最終減益で、要因は前期に計上した税負担の軽減分がなくなる反動。予想年間配当は6円で据え置き。
富士通<6702>は売上収益2.9%減、営業利益0.5%減、最終当期利益2.0%減の連続減収減益を見込む。予想年間配当は8円で据え置き。ITサービス事業では為替の円高で海外のデータセンター向けの売上が減少し、スマホ、携帯電話の出荷台数減も影響するとみている。本決算の発表と同時に、113億円を投じてインターネット接続サービス、クラウド事業を手がける連結子会社のニフティ<3828>をTOBで完全子会社すると発表した。業績に良い効果は出るか?(編集担当:寺尾淳)