「死にたい」「死なせたくない」に一石? 終末医療で筑波大など調査

2016年5月8日 16:54

 癌の最期を自宅で迎える場合と病院で迎える場合とで、生存期間にほとんど違いがないとする調査結果を筑波大と神戸大のチームがまとめた。緩和ケアを行う国内の58医療機関で1年半にわたり調査されたもので、自宅の方がやや長い傾向もみられたという。調査を実施した筑波大の講師は「自宅の方が長生きするとまでは言えない」としながらも、「家を選んでも余命が短くなる可能性は低いと説明することで、患者の不安を和らげることができるのでは」としている。「病院で生まれ病院で死ぬ」が当たり前となった現代の人の生き死に。そのような中この調査結果は今後の終末医療のあり方に影響を与えそうだ。

 厚生労働省による人の死亡場所についての統計では、1951年は自宅の82.5%に対して病院はわずか9.1%。その後差は徐々に詰まっていき、1977年に割合が逆転。最新のデータでは自宅は12.4%、病院が78.4%となっている。背景には少子高齢化に代表される人口形成の変化があり、高齢者を支える若い世代の人数が絶対的にも相対的にも減っていることがあげられる。

 しかし、同省の終末期の療養場所についての希望調査では、国民の60%以上が「自宅で療養したい」と回答している。さらに「要介護状態になっても自宅や子供の家での介護を希望する」と答えた人も4割を超え、希望と実態との激しいギャップが発生していることが分かる。「愛着のある家に帰りたい」「家族に囲まれて旅立ちたい」-。そんな当たり前で単純な願いすら、叶えられる人は少数なのだ。

 原因は様々ある。そのひとつにあげられているのが、「死にたい」患者と「死なせたくない」家族の存在だ。ある医師によると、末期の癌患者には最期が近いことを悟り死を受け入れている人も多いそうだ。しかし家族の強い勧めでて本人が乗り気でない延命治療を我慢して受け続けてしまう例が後を絶たない。背後には介護してくれている家族に対してわがままを言えないという患者の「優しさ」があるという。家族のほうも「少しでも長生きしてほしい」と患者を思う気持ちから病院での治療を望んでしまう。両者に思いのズレが生じてしまっているのだ。

 厚労省は現在、在宅医療の充実を図るため、地域包括ケアシステムの整備を進めている。地域において医療、福祉、介護の連携を強め、家で介護をする家族のバックアップを強化するものだ。しかしノウハウや人材、財源不足によりなかなか進んでいないのが現状だ。患者にとっても家族にとっても後悔のない最期を迎えるために、迅速な環境の整備が望まれている。 (編集担当:久保田雄城)

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